「……陽音ちゃん?」


聞き覚えのあるその声に反応して服の袖でゴシゴシと涙を拭い、後ろを振り返る。

そこに立っていたのは、渉くんのお母さんだった。
私のことをどこか複雑そうな表情でじっと見つめている。


「おばさん……」

「来てくれたのね、ありがとう」


おばさんは苦しみを滲ませた笑みを浮かべて私の隣にしゃがんだ。

おばさんに会うのはすごく久しぶりだ。

彼が亡くなってから彼のご家族は引越しをしたらしく、二年ぶりくらいの再会だろうか。

おばさんにこんな悲劇をもたらせてしまったのは目の前にいるわたしのせいなのに、どうして責めないんだろう。


「いえ……」

「この子も喜んでるわ」

「そうだといいんですけど……」


渉くんは私のことを恨んでいない?

私は自分のことが許せないよ。絶対に許しちゃいけない。

自分のことが憎くて仕方ないんだ。


「陽音ちゃん……ちょっといい?」

「え?……はい」


おばさんは少し気まずそうに顔を歪ませて私の名前を呼んだ。

きっといい話ではないことはわかっていたけれど、拒否する理由も持ち合わせていない私は素直に首を縦に振った。