結局、急いで市販のチョコを買いに行って渡したけれど、クッキーを作っていたことがお母さんのせいでバレていて黒焦げのクッキーまで渡すことになったのだ。


『はは。黒焦げじゃん。でも一生懸命作ってくれたんだな。ありがとう』


渉くんはそういいながらも、嫌な顔一つせずにクッキーもちゃんと食べてくれたんだよね。

絶対に苦くて不味いはずなのに、文句も言わず食べてくれてその優しさにまた胸がキュンと高鳴ったのを覚えている。

すごく嬉しかったよ。
そのときはもうすでに好きだったんだもん。

きっと、渉くんは知らなかっただろうけれど。


「渉くんに……食べて欲しかったなぁ……っ」


一生懸命、口角を上げて言っているつもりなのに声は震えている。

彼に会いたい気持ちが胸にじわりとこみ上げてきて苦しい。


「そしたら、今度は褒めてもらえたのになぁ……っ」


『よくできてんじゃん。美味いよ』


君のことだからそういって、柔らかく目を細めて頭を優しく撫でてくれたんだろう。

想えば想うほど、君で心が溢れていく。

好きで、好きで仕方なくてもう辛いよ。

気づけば、頬にツーっと透明な雫が伝っていた。
しばらく泣くのは我慢していたのに。