しばらく、歩くと、お線香の匂いが鼻に届いた。
ここに来るのはもう何回目だろう……。
最初の頃は来ることさえできなかった。
でも、最近になってやっと来ることができるようになったのである。
ここに来れるようになったからと言って、彼の死を受け入れられたわけじゃない。
ただ、ここに来たら彼に会えるような気がしたからだ。
一歩ずつ、ゆっくりと彼の眠る場所へと近づいていく。
「……渉くん、久しぶりだね」
と、いっても二週間前にも来たんだけどね。
“森重家”
そう書かれた墓石をじっと見つめて、力なく笑う。
ここに彼は眠っているのである。
鼻の奥がツンと痛み、じわりと視界が滲むけれど唇をグッと噛みしめて堪える。
泣いちゃいけない……笑わなきゃ。
きっと、ここで泣いたら渉くんに怒られてしまう。
そう思い、無理やり笑顔のようなものを作る。
持ってきた仏花を袋から出して、墓石の両脇にあるお花を生ける場所に刺さっていた少し枯れた仏花を抜き、そのまま持ってきた仏花をそっと差し込んだ。
「……昨日ね、家でクッキー作ったんだ。今度は上手にできたの」
ぽつり、と呟いた声に、当たり前だけれど反応はない。
中学2年のバレンタインデーに渉くんにあげようとレシピを見ながら一人で作ったクッキーは黒焦げになってしまい、失敗してしまった。