俺の視界の先で、楠川が一人の男から迫られて腕を無理やり掴まれていた。

ふざけんな……!
汚ねえ手で楠川に触んじゃねぇよ。


「ちょ、快人!?」

「おい!」


何も考えられなかった。
頭で考えている暇なんてなかったんだ。

頭が働くよりも衝動的に体が動いていたのである。
雄一と侑歩が俺を呼ぶ声が聞こえてくるのも無視して真っ直ぐに楠川の元へ走った。


「お願い……手には触らないで」


男に対して楠川が震えた声がそう言った気がした。

抵抗はあまりしていないように思えるけれど、身体が少し震えているように見える。
俺は後ろから男の手をぐっ、と掴んで引き止めた。


「……なんで……滝沢くんが……」


振り返り、恐怖で顔を歪ませた楠川が動揺しながらも俺の名前を呼んだ。

『なんで』ってお前を助けたかったからに決まってんだろ。


「誰だよ、てめぇ」


隣にいた男が乱暴な口調で掴んでいる俺の腕を振り払おうとしたからぐっとよりいっそう掴む力を強めた。


「離せよ。そいつ嫌がってんだろ」


俺の大事な人に触んじゃねえよ。
振られたけれど、今も好きな気持ちは何一つ変わっていない。