でも一つ違うのは私が君に駆け寄って、「カイくん!」と愛おしい人の名前を呼ぶ。

聞こえていないはずなのに、まるで聞こえたかのように柔らかく目を細めて笑う。


ああ、大好きだな。

なんて思っていると、


「ハル、好きだ」


確かに私の耳にはそう聞こえた。
あまりに突然の言葉に目を丸くして驚いてしまう。
だけど、徐々にじわりと視界が滲んでいく。

カイくんは声自体は出せるものの、発した自分の声が聞こえないから今はあんまり声を発することは無い。

だからなのか、たった、一言そう言われただけなのに……何回も聞いてきた言葉なのに何故か涙が溢れて止まらなくなる。

そんな私に少し呆れたように笑いながら、そっと涙を拭ってくれる優しい手。

渉くん、今あなたは私を見守ってくれている?

あのとき、あなたが助けてくれたから私は今すごく幸せです。

これから渉くんの分も生きてどんどん幸せになるから、ずっと見守っていてね。


「私は、大好き、だよ」


そう言葉を発しながら覚えたての手話で君に伝える。

そして、彼のネクタイをきゅっと掴み、ぐいっと背伸びをして、彼の唇に軽いキスを落とした。

私たちはここから始まった。

きっと、こうなる運命だと最初から決まっていたのだと思う。

たくさん、傷ついて泣いて
たくさん、支えあって笑って
どんなときも、君がそばにいてくれた。

だから、これからも二人で同じ景色を見て生きていこう。


Fin.