何も言わずにいなくなったことをまた君を怒っているだろうか。
突然、突き放したことをどう思っているかな。
いや、俺のことなんてそもそも何とも思っていないか。
馬鹿だな、俺は。
もう会うこともないのに、彼女の名前を覚えようとしているなんて。
どこまでも未練がましい自分が情けなくなる。
世界から全ての音が消えてしまう俺とこの先も一緒にいてほしいなんて、そんな図々しいこと言えるわけがない。
俺と一緒にいたら、本来ならしなくてもいいような苦労をかけてしまったり、優しい君を不用意に傷つけてしまうかもしれない。
そんなことが分かりきっているのに、そばにいてほしいなんて言えない。そもそも、俺の一方通行の恋だったのだからこれでよかったんだ。
実らないまま、心の奥にそっと閉じ込めてしまえばいい。
「……会いたいな」
最後にもう一度だけ会えたのなら、その愛嬌のある笑顔も、鈴のように可愛らしい声も、透き通った綺麗な歌声も、全部忘れないように俺の心に深く刻み込むのに。
そんなことを考えながらぼんやりとした頭で俺は、担当医に病状を告げられた日のことを思い出していた。