「もういっそ、言い続けなよ」

「うん!そうする!」


それからも別になにか特別なことを話すんじゃなくてただ“昨日家でこんなことがあった”とか“来週あのドラマが最終回なんだ”とか他愛もない会話をして昼休みを終えた。





放課後になり、バスケ部に所属している江奈は部活へと行ってしまった。

私は帰宅部なので放課後は基本的に暇だ。
だから、今日も本来ならば入ってはいけない屋上に来ていた。

生徒が入れないように施錠されていたけれど、それを解いて入ることに成功したのが二日前。

それから放課後は屋上に来て、しばらく一人で誰にも邪魔されない自分の時間を過ごしてから家へと帰っている。


ここに来る理由といえば一つだけ。

ここにくれば彼と私の物理的には埋められない距離がほんの少しだけでも縮まるような気がしたから。

実際はそんなことはないのだけど、気持ち的にそう思えるからだ。
本当にただそれだけでほかの理由なんて何も無かった。


「ここに来たらからって会えるわけでもないのに……」


ぽつり、と呟いた言葉は刻々と進んでいく世界の音にかき消され、空気の中に溶けて消えていった。