意識してこんな会話をしているんじゃない。もう無意識的にノリで話している。

コツコツ、とローファーが地面を蹴る音が耳に届く。

そんな音さえ、今は明るく弾んだ音に聞こえてくる。


──……ブーブーブー。


隣を歩いていた彼のポケットに入っているスマホがバイブ音を響かせながら震えた。

彼は、ポケットからスマホを取り出して、表示されている画面を見ると、目を大きく見開き、慌てた様子でボタンを押して電話に出た。


「もしもし、滝沢です。………はい…今すぐ向かいます。失礼します」


その声は焦りからなのか少し震えており、動揺の色を隠せない様子で電話を切った。

ただごとではないということは私にもすぐに分かり、彼の身の周りで何かがあったのだと察した。


「悪い……今日無理になっちまった」


申し訳なさそうに表情を歪ませながら、ぽつりと言った。

その綺麗な目に悲しい影がよぎっている。


「いいよ。私のことなんて別に気にしないでいいから早く行ってきな」


そう言いながら、彼の背中をポンッと軽く叩いた。

カラオケなんて、今日じゃなくてもいつでも行ける。