ちゃんと眠れていないのだろうか、と心配になるけれどきっと私が何を聞いても彼は笑顔を崩さずに『大丈夫』と言うだろう。彼はそういう人だからである。
人のことにはズカズカと土足で踏み込んでくるくせに、自分の領域に他人を踏み込ませるようなことはしない。
不自然に思われないように自ら線を引いているような気がする。
「それは無理だわ」
「授業頑張るって言ってたのに意味無いじゃん」
私とカイくんが話す内容なんて本当にくだらないことばかりだ。
それでも、楽しいと思えてしまうのは相手がカイくんだからなのだろう。
クスッと口元を抑えて笑うとカイくんもつられるように肩を揺らして笑った。
こんな時間が……幸せだというのだろうか?
室さんから受け取った渉くんが私に宛てて書いてくれた手紙の内容を読んでからというもの、私は過去にとらわれるのではなく、思い出として胸に抱いて、前を向いて歩いていくことを決めたんだ。
私が、彼の分まで強く生きる。そう誓ったから。
室さんのお子さんも元気に生まれてくるといいなぁ……と私を救ってくれたもう一人の恩人を心の中で想う。
「まあ、楽しみにしてるから」
「うん」