「陽音ちゃん……ありがとう」
どうか、無事に元気な子が生まれてきますように。
どうか、室さんの心の傷が少しでも癒える日がきますように。
こんなに優しい室さんと室さんが愛した女性との間にできた子供だ。素敵な子になるに違いない。
「私の方こそ、ありがとうございました」
精一杯の謝罪と感謝の意味を込めて私は頭を下げた。
それから室さんたちと別れて、私はカイくんを人気のないところまで連れてきた。
そして、震えた声で
「ねぇ、カイくん……ぎゅってして」
と、彼を求めた。
私を、抱きしめて。
壊れてしまいそうなくらい強く。
「よく、耐えたな」
柔らかく優しい声が頭上から降ってきて、それから数秒後に私の体は温かいぬくもりに包まれた。
「……うっ……うぅ……っ!」
言葉にならない想いが溢れて、それが涙へと変わりとめどなくこぼれ落ちていく。
ただ、ただ、辛くて苦しい。最後の最後まで彼は私のことを考えていてくれたんだ。たとえ、それが妹のように思われていたとしてもよかった。
辛かったけれど、聞かなきゃ良かったとは思わない。
きっと、今まで知らなかった大切な人の最期を知ることが出来たからだ。
「……」