「最後にさ、渉に陽音ちゃんが助かったことを伝えたら、アイツ……ホッとしたように笑って……それがアイツの最期だった……っ」


肩を震わせながら静かに涙を流す室さん。
そして、背中をさすって奥さんが切なげな表情を浮かべながらなだめている。

私は、まだ泣かない。というか、泣けない。
ここで泣いたら、きっとまた室さんを苦しめてしまうから。

あの日から苦しかったのは私だけではなかったのだ。

室さんだって、十分深い傷を負って、それでも必死に足掻きながら生きてきたんだろう。


「私、すごく幸せものですね……っ」


たくさんの人に愛してもらえて、好きな人からも好きだった人からも。私はとても恵まれていたのだと今になって気づいた。

死のうとしていたことが嘘みたいに心が温かい感情で溢れていく。


「ハル……」


カイくんが心配してくれたのか私の名前をそっと呼ぶ。

だけど、私はカイくんに大丈夫だよ、と言う意味を込めて目を細め、視線をゆるりと室さんに移して涙を堪えるように笑った。

そして小さく息を吸って、ゆっくりと口を開いた。


「元気なお子さんが生まれるといいですねっ……!生まれたら、いつか顔見せてくださいね」