「おっ、この曲知ってる。このバンドの曲って全部いいよな」
「うん」
ボーカルの人は透き通ったとても優しい声色で……それでいて、心にグッとくる歌詞ばかり。よく、渉くんともこうやって聴いたなぁと懐かしい気持ちが蘇ってくる。
『いつか、一緒にライブ行こうぜ』
『うん!行く行く!』
そう、約束もした。
もう二度と叶うことはないけれど、不思議と涙は出なかった。いつもはこの曲を聴くとこの約束を思い出して泣いてしまうのに。
ただ、涙は出なくても胸はぎゅっと締めつけられ、切なく疼いてはいる。
だけど、同時に心の中がじんわりと温かくなった気がした。
私は渉くんとたくさんの時間を共有できて、とても幸せだった。
幸せだった頃の時間を思い出して、泣いていたけれど今は心が温かくなっていい思い出だと胸を張って言える。
そう思えるのはきっと今、私の隣でグラウンドを眺めているカイくんのおかげだ。
こてん、と彼の肩に自分の頭を預けてそっと目を閉じた。なんとなく、そうしていたかったのだ。
カイくんがどんな顔してるかは私からは見えないから分からない。