あの日のショックが大きかったのか、私はあれからお店を手伝うことができないまま一週間二週間と過ぎていき、気づけば三月。

いよいよ、こーちゃんの結婚式前日となった。

明日の結婚式のあとに二人は籍を入れるらしく、今日がこーちゃんの独身最後の日。

ちなみに明日の土曜日は私の高校の卒業式の日でもあるため、結局私は明日の結婚式は欠席すると伝えた。


「明日で、高校も卒業か」

昼食を食べ終えてから私は自宅の部屋のベッドに寝転びながら、ボーッとスマホで動画を観ていた。少しでも気分を上げようと選んだのは、人気のコメディ映画。

ちょうどその映画が終わる頃。まるでそれを見計らっていたかのように、スマホにある人からメッセージが届いた。


【幸太 : 環奈、元気?
最近、店で見かけないけど大丈夫か?】

メッセージは、こーちゃんからだった。
まさか、私を心配してメッセージくれたの?


【環奈 : うん、元気だよ。心配しないで!】

そのメッセージとともに、クマのキャラクターのスタンプを送る。


【幸太 : 元気なら良かった!】
【幸太 : あのさ。突然だけど、今から会えるか?】

……え。


【環奈 : ごめん。今日はちょっと用があって】

できるだけこーちゃんに会いたくない私は、そう返事をした。すると、すぐに返事が来る。


【幸太 : 今日、○○公園に来て欲しい】

○○公園とは、幼い頃に私がこーちゃんとよく一緒に遊んだ近所の公園だ。


【幸太 : 俺、公園で待ってるから!】

【幸太 : 環奈が来てくれるまで俺、何時間でもずっと待ってる】


「ええ!?」

私は思わず、ベッドから立ち上がる。


「来るまでずっと待ってるって。結婚式を明日に控えてる人が、何を言ってるの!?」

結婚式前日は色々とすることがあるからと、仕事も特別に休みをもらったと、前にこーちゃんが言っていたけれど。

いくら今日は休みだからって、公園なんて行ってる場合じゃないんじゃない?

せっかくメッセージをもらったけれど、これは全部見なかったことにしてしまおうか。

しばらく悩み、ふとそんな考えが私の頭の中を過ぎったとき、再びスマホが鳴る。


【幸太 : 俺、環奈に会いたい】


「……っ」

私の心臓が、ドクンと跳ね上がる。


『環奈に会いたい』って。明日、自分は結婚するくせに。こんなことを言うなんて、こーちゃんはズルい。


「私が嬉しいって思ってしまうようなこと、そんな簡単に言わないでよ……」

好きな人に『会いたい』なんて言われたら、これはもう行くしかないじゃない。

「絵里さん、ごめんなさい」

そう呟くと私はコートを羽織り、急いで家を出た。