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ほんと、こーちゃんのそういうところは社会人になってもちっとも変わってない。
「はぁ……っ」
「どうしたんだよ、環奈。ため息なんかついて。何かあった?」
まさか、こーちゃん本人に原因があるだなんて言えるはずもなく。
「何でもないよ。……はぁ」
「そう何度もため息ついてると、幸せが逃げていくぞ?」
「んんっ!?」
こーちゃんが両方の人差し指で、私の口角をむにっと上げる。
「環奈、笑って。せっかくの可愛い顔が台無し」
「こーちゃ……」
「何があったか分からないけど、辛いときこそ笑って。スマイル、スマイル! 笑ってればきっと良いことある」
……こーちゃんは、いつもそうだった。
私が小学校低学年の頃。ウチの喫茶店がオープンしたばかりで、なかなか店にお客さんが来なくて。学校の男子たちにからかわれて私が泣いていたときも。
『泣くな、環奈。あいつらに嫌なこと言われても、笑っていれば良い。笑ってればそのうちきっと、良いことあるから』
『店に他の客が来なくても、俺は毎日通う。俺が環奈んちの店の常連第一号になる』
あの日。十三歳のこーちゃんに言われたように、男子たちにからかわれても気にせず笑うようにしていたら。いつの間にか男子たちは、私に嫌なことを言ってこなくなった。
そしてこーちゃんはあの日宣言したとおり、ほんとに毎日店に通ってくれるようになって。子どもの頃のこーちゃんは、甘いカフェオレを飲むのが好きだった。
中学、高校、大学と時が経つうちに、彼が注文するものがいつしか甘いカフェオレから無糖のコーヒーに変わったくらいで。
社会人になった今でも変わらずこーちゃんは、ほぼ毎日のようにウチに顔を見せてくれている。
本当にこーちゃんは、ウチの長年の常連さんだよ。
「あ。環奈、やっと笑った」
「え!?」
昔のことを思い出していたからだろうか。
「やっぱり環奈は、笑った顔が一番だ。
俺、環奈の笑顔好きだよ」