翌日。高校の卒業式のこの日は、私たちの新たな門出を祝ってくれているかのような晴天に恵まれた。
式典と最後のホームルームが終わり、しばらくは写真を撮ったりするクラスメイトたちで騒がしかった教室もようやく静かになった今。
私は一人教室に残り、自分の席から窓の外の青空を見つめていた。
今日は、こーちゃんの大事な結婚式の日でもあるから。晴れてくれて、本当に良かった。
「白井!」
名前を呼ばれて振り返ると、卒業証書を手にした山科くんが立っていた。
「あれ。山科くん、学ランのボタン……」
彼の学ランは、第二ボタンだけでなく全てのボタンがなくなっていた。
「ああ。女子たちに、勝手に持ってかれた」
「そうなの!? 山科くん、ほんとモテるね」
私は、山科くんから視線を空へと戻す。
「白井、まだ帰らないの?」
「うん。今日でこの教室ともサヨナラだから。もう少しだけいようと思って」
「そっか」
すると山科くんが、私の前の席へと座った。
「俺も、一緒にいて良いか?」
「え、うん」
「白井、何だか寂しそうだから」
「そりゃあ、寂しいよ。だって、今日で卒業なんだから」
私はそれだけ言うと、しばらくまた青空を見つめる。山科くんも私と同じように、じっと空を見上げている。
「ねえ。山科くん、帰らなくて良いの? 私と一緒にいても、つまらないだろうし」
「そんなことないよ。白井といると楽しい」
「そうなの?」
「ああ。だって俺、白井のことが好きだから」
「……え?」
私は、空から再び山科くんのほうを見る。
「山科くん。今、なんて?」
予想外の言葉に、目をパチパチとさせてしまう。
「だから、俺は白井のことが好きだ」
「えええ! 嘘でしょ!?」
「白井、うるさい」
「ご、ごめん」
まさか、山科くんに教室で告白されるだなんて思ってもみなくて。つい大きな声を出してしまった。
「つーか、嘘じゃないし。俺はずっと、白井のことが好きだった」
山科くんは、とても真剣な顔つきをしている。
「白井はいつもニコニコしてて。学校や家の喫茶店のことも頑張ってて。いい子だなって思ってた」
まさか、私のことをそんなふうに思ってくれていたなんて。
「白井には他に好きなヤツがいるって、なんとなく分かってたから。俺は見てるだけで良いって思ってた。
だけど、今年になってしばらくしてから明らかに白井が元気なくなって。どうしたんだろうって気になって。それで話しかけるようになって」
そうだったんだ。
「だってさ、やっぱ自分の好きな子には笑ってて欲しいだろ?」
「……っ」
思い返してみれば山科くんは、今年こーちゃんの結婚が決まって私が辛いときによく話しかけてくれていた。
面白い話をしてくれたり、『元気出せ』って言ってチョコをくれたり。
そうか。クラスで、私のことをちゃんと見ていてくれる子がいたんだ。



