初恋からの卒業



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十年後の環奈へ
元気ですか?
十年後の環奈は高校三年生か。
今の俺よりもお姉さんになってるんだな。
高校生になっても環奈は、俺と仲良くしてくれていますか?
俺にとって環奈はずっと大事な幼なじみだ。
この先何があっても、それだけはきっと変わらない。
そして俺は、何よりも環奈の笑った顔が好きです。
環奈が、ずっと笑顔でいられますように。
今日も幸せでありますように。
幼なじみとして、俺はいつも環奈の幸せを願っています。

十三歳の幸太より
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* * *


こーちゃん……。

今とは少し違う、まだ子どもらしさの残る文字。
手紙からは、当時のこーちゃんの私への想いが伝わってくる。

こーちゃんって、ほんとに変わらない。
大人になった今だってそう。

『スマイル、スマイル! 笑ってればきっと良いことある』

私が落ち込んでいたら、いつも元気づけてくれて。

『何度もため息ついてると、幸せが逃げていくぞ?』
『俺、環奈には笑ってて欲しいからさ』

そう言って、笑いかけてくれた。


そして今の私よりも幼い、中学生だったときも。

“ 環奈が、ずっと笑顔でいられますように。”
“ 幼なじみとして、俺はいつも環奈の幸せを願っています。”

子供の頃からずっとこーちゃんは、私のことを想ってくれていたんだ。私の幸せを、いつも願っていてくれたんだ。

それなのに、私は……。

こーちゃんからの手紙を持つ私の手が、プルプルと震える。


思い返してみれば、私は今までずっと自分のことばかりだった。

こーちゃんの結婚式の招待状が届いたときも、ショックを受けるばかりで。
こーちゃんが絵里さんと一緒にウチの店に来たときも、仲睦まじい二人を見ていられなくて私は逃げてしまった。

大好きなこーちゃんが結婚するのが嫌で。
そのことを受け入れられなくて。

結婚なんてしないで。ずっと私だけのこーちゃんでいて欲しいなんて、子どもみたいなことを思ってしまっていた。

だから私は、今まで一度だってこーちゃんの幸せを考えたことなんてなかった。

私も……本当にこーちゃんのことが好きなら、こーちゃんの幸せをまず一番に願わないといけなかったのに。

私は、こーちゃんを見つめる。

私は今、十八歳だ。明日で高校も卒業するのだから。いつまでも、初恋を引きずっていてはいけない。
こんな自分からも、卒業しなくちゃ。


「こーちゃん、手紙ありがとう。あと……ごめんね」
「え。環奈、いきなりどうした?」
「えっと、まだお祝いの言葉をこーちゃんに言えてなかったなと思って」


『結婚おめでとう』

たったその一言が、今までずっと言えなくてごめんね。
遅くなってしまったけれど、ちゃんと言わせて欲しい。


「あの、こーちゃん。えっと、絵里さんとの結婚……おめでとう」
「環奈」

こーちゃんの目が、ほんの少し潤んだように見える。


「ありがとう。やばい。環奈に言ってもらったおめでとうが、今までで一番嬉しいかもしれない」
「えっ、ほんとに!? ていうか、こーちゃん涙ぐんじゃって大袈裟だよ」
「年とったら、涙脆くなってくるんだよ。あと、俺からもありがとう」
「え?」
「八歳の環奈からの手紙」