十年前にクッキーの缶箱を埋めたのは、桜の木のあの一番長い枝の下。確かこの辺りだったはず。
曖昧な自分の記憶を頼りに、土を掘り続けること五分。

あ、あれ? こーちゃんと二人で土を掘っても掘っても、なかなか缶箱は現れてくれない。

もしかして自分が思っていた以上に、もっと奥深くに埋めたのだろうか? それとも、掘る場所を間違えてしまった?

嫌な予感がし、シャベルを持つ手に僅かに疲れを感じ始めたときだった。

「あっ!」

シャベルが、何か固いものに当たる感触がした。

「環奈っ!」
「こーちゃん!」

ようやく缶箱が見え、私とこーちゃんはお互いの顔を見合う。


「よいしょっ」

こーちゃんが穴に腕を突っ込み、缶箱を取り出してくれた。


「あーそうそう。この箱だ」
「うわー、懐かしい」

クッキーの缶箱は十年の時を経て、泥がつき錆がかかっていたけれど。今のものとは少しデザインが違う一昔前の赤い箱が、とても懐かしい。


「いいか? 蓋、開けるぞ」

固定してあったガムテープを外し、こーちゃんが缶箱を開けてくれる。

「おおーっ!」

箱の中に入っていたのは、私とこーちゃんがそれぞれ互いに宛てて書いた手紙。二人で一緒に写っている写真。そして、当時私がとても大切にしていた、小さなクマのぬいぐるみ。

「え、このぬいぐるみめっちゃ懐かしい」
「環奈、そのクマ毎日持ってたよな」

そうだ。今は亡き祖母が、私の五歳の誕生日にプレゼントしてくれた手作りのぬいぐるみ。


「ていうか写真! 私って、こんなに小さかったんだ」

写真の中の私は、髪を二つに結んでいて。
私の隣にいるこーちゃんとの身長差が、かなりある。

「八歳の環奈、小さくて可愛かったよ。まあ、俺からしたら今もあんまり変わらないけど」
「えっ、何それ! もしかしてチビってこと!?」
「違う違う。今でも環奈はめっちゃ可愛いってこと」

えっ!?

そんな。か、可愛いってこーちゃん。またそんなことをさらっと……。
私は、自分の顔が一瞬で熱くなるのが分かる。


「なあ、環奈。十年後のお互いに向けて書いた手紙、交換しない?」
「あっ、そうだね」

私とこーちゃんは、お互いの手紙を交換する。

八歳の自分が、こーちゃんに向けて何を書いたのかも覚えていないけれど。
あのとき十三歳だったこーちゃんは、私に一体どんなことを書いてくれたのだろうか。

色あせることなく十年前の状態のままで残ってくれていた彼からの手紙を、私はドキドキしながら開封する。