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不思議なことがあったあの日から数週間が経った。相変わらず、私は空気みたいな扱いを受けているし、一軍女子達には大いに嫌われている。
けれども、あの日から眼鏡の少女、前田茜が話しかけてくれるようになった。それを皮切りに、なんとなくクラスメートからの視線が優しくなった気がする。
いじめが完璧になくなったとは言えるはずがない。しかし、世界は確実にいい方向へと動いていた。
そんなとある日のホームルーム。
「教育実習で今日から3週間、みなさんと一緒に過ごさせてもらいます」
黒板の目の前で深々とお辞儀をする大学生。
「この人はここの学校の卒業生でな、先生の教え子でもあるんだ」
小鳥遊のネームプレートを首から下げた先生が大学生について話す。この先生は普段は別の学年を担当だが、今日はたまたま私のクラスの担任が休みだと言うことで代理として来た。
すごく気さくで生徒思いらしく、みんなから愛されている。
「えーっ、うそー!」
「教え子!?マジマジ!?」
「ほんとだぞ。なんなら、この学校の七不思議に遭ったとも言われて……」
「ちょ、先生、そんな恥ずかしいこと掘り起こさないでくださいよ」
先生と笑い合う教育実習生が、ふと私の方を視線を向けた。長めの前髪から覗く切れ長の瞳が、私の目と合う。
その瞬間、あっ、とお互いに声が出た。まるで、電気が背中に走ったみたいだった。
無意識に。タイミングよく。そして、必然的に。
目と目が合った私達は、しばらく動きを止め、そして、にっこりと微笑み合った。