いかにも胡散臭い古びたアパートの一室に来て、早七分。

 六十代後半の仲村渠孝徳(なかんだかり こうとく)は、痺れはじめた両足の痛みに後悔を覚え始めていた。

 古びた畳みや障子の匂いを押しのける、強烈な御香で今にも鼻が曲がってしまいそうだ、と彼は思った。

 ここは狭い四畳半の部屋だ。その畳間のタンスの上などに置かれた数多くの仏像や熊の置物にも、彼は冷静でいられなかった。シーサー、招き猫、水晶を抱え込んだ竜、とぐろをまいた金色の蛇がいる十二支のミニチュア祭壇……ああ、息が詰まりそうだ。

 仲村渠は、騒がしい足音を発する目の前のユタへと視線を戻す。

 そして、やはり顔を顰めるなり、すでに嗅覚が麻痺しかけている自身の鼻をつまんだ。

 彼はユタというものをあまり知らなかったが、これは違うかな、と当初から思っていた自分の直感が徐々に真実味を帯びてくるような気がしていた。

 仲村渠は、若いうちに自身の家族とは縁を切っていたので、墓に関わる行事や知識、ユタとの接点を一切持っていなかった。