「俺は愛沢(あいざわ)がいいと思います」



セミが子孫を残すために精一杯鳴いている。締め切られた窓越しでも分かった。それに割り込むかの様に島田透(しまだとおる)が声をあげる。ご苦労なことに手まで挙げて。


高校三年生の夏になったのにもかかわらず、僕はクラスメイトの大半の名前と顔が一致しない。


そんな僕でも流石にクラスカースト上位の島田透くらいは覚えていた。女子に人気で明るいやんちゃな性格が授業風景から見受けられる。


だが、そんな悠長なことを考えている場合ではない。このクラスで愛沢は僕だけだということに気付く。


ただ名前を呼ばれるだけならまだしも、これが文化祭実行委員の推薦であることを忘れてはいけない。



「俺もいいと思う」



「あたしも透に賛成」



「愛沢くん真面目そうだから、きっとクラスをまとめてくれるよ」



僕がぽけ〜っとしているうちに票が集まっているではないか。ここまで来るともう無理だ。やらざるを得ないだろう。


どうせみんな僕の名前を今さっき知っただろうに。



「皆さんは愛沢くんが実行委員になることに賛成ですか?」



名も分からない学代が聞く。