それから立花くんに会えたのはしばらく経ってからのことだった。私が桜の木に行く時に立花くんとのタイミングが合わず、なかなか会えなかった。

私が何かしちゃったのかな。もう話せなくなったら嫌だなぁ。

考えれば考えるほどわからなくなり、桜の木の下に行こうとカーディガンを羽織って外に出る。すると、久しぶりに立花くんが桜の木の下にいるのが見えて、私は小走りで駆け寄る。すると、立花くんは私に気づいたみたいでニコッと微笑んでくれた。

「久しぶりだね、立花くん。なかなか桜の木に来るタイミング合わなかったね」

「うん、久しぶり。篠崎さん。久しぶりに会えて嬉しいよ」

よかった。嫌われて時間ずらされてた訳じゃなかったんだ。

安心して頬が緩む。それから、お互いについて知るために質問し合おうということになった。立花くんは優しい微笑みを浮かべて桜の木を見つめている。

やっぱり他の患者さんとはどこか違う雰囲気がある...。なんでだろう?

そう思いながらお互いの質問に答えていった。好きな食べ物、色、音楽、そんなありきたりなものから、好きな病院食など入院患者にしかわからないものまでたくさん話した。今日一日でお互いのことをよく知れたとおもう。最後に立花くんが、

「退院したらやりたいことはなに?」

と聞いた。私はすぐに

「学校に行って勉強したり、友達をつくったり、いろんな行事に参加したりしてみたい」

と答えた。立花くんは?と聞き返すと少し考えて

「僕は...、海に行ってみたい...。この体じゃ行けないから...」

悲しそうな笑みを浮かべて立花くんはそう言った。

海に行けない体ってなんだろう。体力が続かないってことかな?

私はどうしても気になっていたことを質問した。

「ねぇ、立花くんってなんの病気なの?」

立花くんは困ったように俯いてしまった。聞かれたくないことだったのかなと不安になり、私から自分がなんの病気か話すべきだったかもと話を続ける。

「私はね急性骨髄白血病なんだ。
もともと体は弱かったんだけど、小学四年生くらいの時に発病してそれから入退院を繰り返してるの。最初は軽くて抗がん剤治療だけで済んでたんだけど、最近は入院したままじゃないといけなくなっちゃってさぁ。薬の副作用で皮膚は荒れるし、吐き気はするし、前は髪の毛も抜けちゃって...。だから桜の木だけが私の癒しだったの。だけど、こうやって立花くんと会えて、お話しできてとっても嬉しいんだ!」

にこっと私は立花くんに笑いかける。思えばこんな風に自分の病気について話すのは初めてだと思った。立花くんは、少し考えたようにした後ゆっくりと話し始めた。

「強いね、篠崎さんは。僕は....皮膚の病気なんだ。あまり強い日光にはあたれないし、潮風のあるところにも行けない。だから夕方にしかこの桜の木に来れないんだ。もし、篠崎さんがよかったらまたここで僕と会ってくれないかな?」

そう、いつもより真剣な眼差しで立花くんに言われた。どこか強い意志を感じて、私は

勇気を出して病気について話してくれたのかな

と思った。私はまた立花くんに会えることが嬉しくて二つ返事で頷く。立花くんは安心したようにまたいつもの笑顔になっていた。

「ありがとう、篠崎さん。僕のことは颯でいいよ」

そう言われて私は

「なら、私のことも四葉って呼んで。」

と思わず言ってしまい、急に恥ずかしくなってきた。

うー。もし嫌がられたらどうしよう!
こういうときどうしていいかわからないー!

と友達なんて作ったことのない私の心配とは裏腹に、たちば....颯くんはにこやかに了承してくれた。
お互い名前で呼び合うことになり、少し恥ずかしさを覚えながら初めてできた友達とその日は別れた。