あれから何度か颯くんと会って話をしたけれど、桜の木に対するモヤモヤを抱えたままだった。

「そう言えば、四葉、僕の母さんと会って話したんだって？」

颯くんにそう聞かれては私は内心ドキッとしてしまう。

「あ、そ、そうなのー！颯くんの話とかいっぱいしたんだよー！」

あははと笑いながら話したつもりだけど、きっと私の顔は引きつっていたと思う。
最初は、恥ずかしいなと言いながら笑っていた颯くんだけど、私の異変が伝わってしまったみたいで、心配そうな顔をされる。

「四葉？どうかしたの？」

私は観念して

「えっとね、颯くんのお母さんと話した時、最後にね....」

颯くんに桜の木を好きでいられるか分からなくなったと正直に伝える。颯くんが病気のことを話してくれたから、私も隠し事はしないと決めた。
颯くんはなんだそんなことかと微笑む。

「僕は四葉に好きでいて欲しいよ、桜の木。
確かに僕はこの身体から生えている桜の木によって死ぬけど、僕の身体は無くなっても、桜の木は生き続けるからね。　
なんて言うんだろう？こう、ちょっとファンタジーっぽくなっちゃうんだけどさ、魂は桜の木で生き続けるって言う感じだと僕は勝手に思ってるんだ。
普通、人が死ぬと骨しか残らないけど、僕は別のところで生きているって。
だから、僕が死んだあと、この桜の木はあるところに植えてもらうことになっててね、四葉にもその桜の木に来てほしいな」

そっか、颯くんは完全にいなくなってしまうわけじゃない。桜の木の中で生き続ける。

「素敵な考え方だね。本当に桜の妖精みたい」

顔を見合わせて笑い合う。

颯くんが死んでしまうことは悲しい。たとえ桜の木の中で生き続けるんだとしても、私はこうやって顔を見て笑ってお話がしたい。でも、それは出来ない。だからせめて、桜の木を好きであり続けたい。

そう思った。