それから私たちは今まで以上にたくさんの話をした。颯くんはこれない日がさらに増えたけれど、それでも、前より生き生きはしているように見えた。
そんなある日、桜の木の下に知らない女の人がいた。
あれ?誰だろう。珍しいな、私と颯くん以外の人がいるなんて。
この桜の木は病院の敷地内にあるから、誰でもくることはできるけど、目立たない所にベンチと桜の木があるだけなので、今のところ、私と颯くんしか来ていなかった。その女の人は私に気づくと、こっちに歩いてきた。
「あの.....もしかして、篠崎四葉さん?」
急に名前を呼ばれびっくりする。
あれ?知り合いにこんな人いたっけ?うーん、誰かに似てるような気はするけど...
「はい、そうです。えっと....?」
するとその女の人は
「初めまして。立花颯の母の立花深鈴と言います」
と言って笑った。
確かに笑顔が颯くんそっくりだ。
「颯くんのお母さん!初めまして!」
私は頭をぺこっと下げて挨拶する。
颯くんのお母さんは座って話しましょうかと言って自分の隣の席を開けてくれる。
「突然ごめんなさいね。颯からあなたの話を聞いて、ぜひお話ししたいなと思ったの。そうしたら、颯がこの場所を教えてくれてね」
「颯くんが?」
「ええ。四葉さんはとても大切な友達だって、嬉しそうにしていたわ。仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、そんな」
急に褒められて、恥ずかしくなる。
「それとね、お礼も言いたかったの」
「お礼?」
「ええ。颯の病気がわかってからね、私、どうしたらいいかわからなくて。でも、今まで通りに接しようとしてきた。だけれど、颯の病気は、どんどん進んで、笑顔がなくなって、私も夫もそれが耐えられ無くなってしまったの。私達の所為だって、自分を責めたこともあった」
その時のことを思い出したのか、颯くんのお母さんの顔に悲しみが浮かぶ。
私は黙って話を聞いていた。
「それが颯に伝わってしまったのね。
私達が何を言うわけでもなく、あの子は自宅療養じゃなくて入院するって言い出したの。
最初は止めたけれど、結局、私達は入院させてしまった。お見舞いににも来なくていいって言わせてしまった。それを後悔していたの。なんでもっと颯に寄り添ってあげられなかったんだろうって」
颯くんも、お母さんも、お父さんも、みんながお互いのことを考えていたんだな。
「そんな時、颯から、久しぶりに会いたいって連絡が来たの。夫とすぐに向かって、颯に会いに行ったわ。颯は、前より病気が進行して辛そうだったけれど、すごく生き生きしていた。どうしたのか聞いたら、友達のおかげだって。あなたとのこと、すごく楽しそうに話してくれたのよ?颯の笑顔、久しぶりに見れた」
本当に嬉しそうに笑顔になったその顔は颯くんそっくりだった。
「だからね、本当にありがとう。四葉さん。あの子を笑顔にさせてくれて、仲良くしてくれて。私達、家族をまた会わせてくれて。あなたのおかげで、颯と向き合う覚悟が出来た」
目を潤ませながらお母さんは私の手を握る。
「いいえ、そんな。私のおかげなんかじゃありません。お二人が自らの意思です。お二人の強さです。そうじゃなかったら、きっと颯くんに会いに行けないはずですから」
本当にそうだと思った。だって、颯くんからも、颯くんのお母さんからも、心からの優しさが滲み出ているから。私がいなくても、きっと2人は会いにいっていたはずだ。
「あなたは優しいのね」
それから颯くんのお母さんとはたくさんの話をした。颯くんの小さい頃の話、私の話、とても楽しかった。
「四葉さん、今日はどうもありがとう」
「こちらこそ!ありがとうございました」
私は笑顔で颯くんのお母さんにお礼を言う。
颯くんのお母さんは、ふふッと笑って
「四葉さん、颯が言っていた通り、本当に桜の妖精みたいな人ね。桜の木、颯の命を奪う木だから、最近はあまり好きじゃなかったけれど、四葉さんのおかげでまた好きになれた。ありがとう。それじゃあまたね」
そう言った。
私はお辞儀をして颯くんのお母さんを見送った。
『颯の命を奪う木』
今まで気にしていなかった事実が重くのしかかる。
そうだ。大好きな桜の木が、颯くんの命を奪う。
それでも私は、桜の木を好きでいられるのかな?
そんなある日、桜の木の下に知らない女の人がいた。
あれ?誰だろう。珍しいな、私と颯くん以外の人がいるなんて。
この桜の木は病院の敷地内にあるから、誰でもくることはできるけど、目立たない所にベンチと桜の木があるだけなので、今のところ、私と颯くんしか来ていなかった。その女の人は私に気づくと、こっちに歩いてきた。
「あの.....もしかして、篠崎四葉さん?」
急に名前を呼ばれびっくりする。
あれ?知り合いにこんな人いたっけ?うーん、誰かに似てるような気はするけど...
「はい、そうです。えっと....?」
するとその女の人は
「初めまして。立花颯の母の立花深鈴と言います」
と言って笑った。
確かに笑顔が颯くんそっくりだ。
「颯くんのお母さん!初めまして!」
私は頭をぺこっと下げて挨拶する。
颯くんのお母さんは座って話しましょうかと言って自分の隣の席を開けてくれる。
「突然ごめんなさいね。颯からあなたの話を聞いて、ぜひお話ししたいなと思ったの。そうしたら、颯がこの場所を教えてくれてね」
「颯くんが?」
「ええ。四葉さんはとても大切な友達だって、嬉しそうにしていたわ。仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、そんな」
急に褒められて、恥ずかしくなる。
「それとね、お礼も言いたかったの」
「お礼?」
「ええ。颯の病気がわかってからね、私、どうしたらいいかわからなくて。でも、今まで通りに接しようとしてきた。だけれど、颯の病気は、どんどん進んで、笑顔がなくなって、私も夫もそれが耐えられ無くなってしまったの。私達の所為だって、自分を責めたこともあった」
その時のことを思い出したのか、颯くんのお母さんの顔に悲しみが浮かぶ。
私は黙って話を聞いていた。
「それが颯に伝わってしまったのね。
私達が何を言うわけでもなく、あの子は自宅療養じゃなくて入院するって言い出したの。
最初は止めたけれど、結局、私達は入院させてしまった。お見舞いににも来なくていいって言わせてしまった。それを後悔していたの。なんでもっと颯に寄り添ってあげられなかったんだろうって」
颯くんも、お母さんも、お父さんも、みんながお互いのことを考えていたんだな。
「そんな時、颯から、久しぶりに会いたいって連絡が来たの。夫とすぐに向かって、颯に会いに行ったわ。颯は、前より病気が進行して辛そうだったけれど、すごく生き生きしていた。どうしたのか聞いたら、友達のおかげだって。あなたとのこと、すごく楽しそうに話してくれたのよ?颯の笑顔、久しぶりに見れた」
本当に嬉しそうに笑顔になったその顔は颯くんそっくりだった。
「だからね、本当にありがとう。四葉さん。あの子を笑顔にさせてくれて、仲良くしてくれて。私達、家族をまた会わせてくれて。あなたのおかげで、颯と向き合う覚悟が出来た」
目を潤ませながらお母さんは私の手を握る。
「いいえ、そんな。私のおかげなんかじゃありません。お二人が自らの意思です。お二人の強さです。そうじゃなかったら、きっと颯くんに会いに行けないはずですから」
本当にそうだと思った。だって、颯くんからも、颯くんのお母さんからも、心からの優しさが滲み出ているから。私がいなくても、きっと2人は会いにいっていたはずだ。
「あなたは優しいのね」
それから颯くんのお母さんとはたくさんの話をした。颯くんの小さい頃の話、私の話、とても楽しかった。
「四葉さん、今日はどうもありがとう」
「こちらこそ!ありがとうございました」
私は笑顔で颯くんのお母さんにお礼を言う。
颯くんのお母さんは、ふふッと笑って
「四葉さん、颯が言っていた通り、本当に桜の妖精みたいな人ね。桜の木、颯の命を奪う木だから、最近はあまり好きじゃなかったけれど、四葉さんのおかげでまた好きになれた。ありがとう。それじゃあまたね」
そう言った。
私はお辞儀をして颯くんのお母さんを見送った。
『颯の命を奪う木』
今まで気にしていなかった事実が重くのしかかる。
そうだ。大好きな桜の木が、颯くんの命を奪う。
それでも私は、桜の木を好きでいられるのかな?