「っ!ごほっ、ごほっ!」
しばらく咳き込み続けるとだんだん落ち着いてきた。私は篠崎四葉(しのさきよつば)。小さい頃から体が弱く、入退院を繰り返す日々を送っている。今日は中学校の入学式だったのに、3日前から入院していて参加できなかった。

あーぁ、いつまで続くんだろう、この生活。私もみんなみたいに制服を着て、勉強して、たくさんの思い出を作りたいのに。このままじゃ、友達すら作れない。

はぁ、とため息をついて窓の外に目を向ける。中庭の真ん中にはポツンと立っている大きな桜の木がある。周りに遮るものがなく、そよそよと風に吹かれながら桃色の花びらを散らす桜の木は私のお気に入りだ。
どんなに辛くなってもこの桜の木を見ると少し気分が晴れる。
少し気分が良くなり鼻歌を歌いながら売店まで行こうかなと考えた。一週間に一回ならお菓子やジュースを飲むことを許されている。

最近、桜もちが発売されたはずだから買いに行こうっと。

スリッパを履いて点滴を押しながら私は個室を後にした。