それから、颯くんは来なくなる日が多くなった。来たと思ったら、包帯がまた増えて、顔色が悪くなっていた。心配だったけれど、颯くんにちゃんと聞く勇気はなかった....

「今日も颯くんは来ないかな....」 

1人、桜の木の下のベンチでつぶやく。しばらくすると、足音が聞こえてきて、四葉、と呼びかけられた。この声は颯くんだ。

「颯くん!久しぶり、体調は......」

私は颯くんの姿を見て言葉につまってしまった。颯くんは、包帯をたくさん巻いて、最初に会った時とは比べものにならないほど、痛々しい姿になっていた。
颯くんは困ったように笑うと

「びっくりさせちゃったよね。ごめんね。今日は四葉に話したいことがあってきたんだ」 

ふらふらとおぼつかない足取りで歩いてベンチに座ってそう言った。近くで見れば見るほど痛々しくて、顔色もとても悪くて、呼吸も荒い。私の不安はさらに膨らんでいった。

「颯くん....?すごく、顔色悪いよ。今日は....もう休んだ方が....」

それしか言えなかった。不安な気持ちを押し込めて私はそう言うしかなかった。

「ううん、大丈夫だよ。それに...
   
   今日話せなかったら、もう、
      二度と話せないかもしれないから」

「それって、どういう......」

私が全て言い終わる前に颯くんは、激しく咳き込み始め、うずくまる。脂汗が体をつたって地面に落ちた、

「颯くん!?」 

颯くんはヒュー、ヒュー、と苦しそうに息をしている。

「待ってて!!すぐに看護師さんを呼んで来るから!」

私は颯くんにそう伝えると、走って病院に戻った。走ると毎回苦しくなるけれど、今はそんなこと気にしている場合じゃなかった。

颯くん、あんなに具合悪かったなんて...
具合が悪そうなことは気づいていたのに!私は、何もできなかった!しなかった!

目に涙が滲んでくる。病院に入ると、すぐ近くの看護師さんに颯くんが倒れたことを告げた。看護師さんは、数人の看護師さんとお医者を連れてきて、私に案内するよう頼んだ。颯くんはテキパキとストレッチャーに乗せられて病院へ運ばれる。その直前、颯くんは

「16時、桜の....木の下で....待ってて....かな...らず、行くから....」   

そう言っていた。それと同時に、私の体の力が抜けて倒れる。

走っている途中で限界が来なくてよかった

消えていく意識の中でそう思った。