「颯くん、この間はありがとう。颯くんのおかげでお母さんにちゃんと言えたよ!」
私はペコっと頭を下げてお礼をする。颯くんがいなかったらきっと私はお母さんに寂しいとすら言えなかったと思う。颯くんが私の話をちゃんと聞いて、それでアドバイスしてくれたおかげだ。
「僕はたいしたことはしてないよ。でも、うまくいってよかった」
優しい笑みを浮かべて颯くんはそう言った。颯くんは桜を見上げて愛おしそうに目を細める。
あれ?颯くん包帯が増えてる?
さっきまでは遠くて気が付かなかったが、首に包帯が増えてる。なんとなく、顔色も悪い気がした。
「ねぇ、颯くん。なんか、前より包帯増えた?顔色も悪い気がするけど、体調、悪い?」
颯くんは少しだけ、目を見開いたけれど、すぐに笑顔に戻った。
「大丈夫だよ。さぁ、今日は何を話そうか」
いつもと変わらない笑顔と態度。でも私は少しだけ不安を抱いていた。
颯くんと出会ってから一ヶ月がたとうとしていた。
いつも通り、桜の木の下で色んな話をする。その時、ざあっと強い風が吹く。桜の木は枝をしならせながら花を散らしていた。
「もう、春も終わりかなぁ」
私はそう呟いた。
颯くんは寂しそうに笑って
「そうだね、今のうちにしっかり見ておかないと。最期の桜」
え?と私の中で不安が大きくなる。前から感じていた不安。それがしっかり形をもとうとしていた。
最近の颯くんは言動や態度がおかしい
その思いが伝わったのか、颯くんは
「今年最後のって意味だよ。四葉は深く考えすぎ」
そう言ってからかうように笑った。
初めて見るその笑顔。新しい一面を見れることは嬉しい。最近の颯くんは明るくなった気がする。
でも、それだけで片付けていいことなのかな。本当は何か、大変なことを隠しているんじゃ....例えば颯くんはもう....
ううん、とその考えを追い払う。そんなわけ無いと頭の隅に追いやった。
「そっか!考えすぎかー。最近そんなドラマばっかりだから影響されちゃったのかもなぁー。病院でそんなドラマ不謹慎だよねー」
自分でも不自然だと思うくらい明るい声をあげる。
そうでもしてないと、不安でしょうがなかった。