またね、と四葉は笑顔で部屋に戻って行った。あの子はいつも元気で僕までつられて笑顔になる。

「ふぅ......___ッ!」

キリキリと左目が痛む。呼吸が荒くなり、脂汗が背中を伝う。しばらく、うずくまっているとだんだん治まってきた。

「はは....左目が痛むなんてまるで中二病だな。まぁ、もともとこの病は中二病チックだけど....」

自嘲気味に笑う。この病を発症したのは小学6年生の時だった。
治療法はなく、病名を告げられてすぐ、余命宣告をされた。病状説明日のたびに残りの寿命を言われる。僕の命はあと一ヶ月持つかどうからしい。
最初は家で最期を迎えるつもりだったが、母さんは嘆き、父さんは日常を取り繕おうと必死で、僕はそれが耐えられなかった。
だから、かつて僕と同じ病気で入院していた人がいたことがあるこの病院に、その人と全く同じ部屋に入院した。
母さんと父さんにはお見舞いに来ないように言って。でも....

「久しぶりに会いたくなったなぁ」

四葉と初めてあった時、桜の妖精みたいだと思った。
白く透き通った肌に、ほんのり桜色に染まった頬。そして優しい微笑みを浮かべながら桜の木を眺める眼差し。
僕はすぐに引き込まれた。初めて誰かのことを知りたいと思った。話してみると、とても優しく、明るい子で桜の木の下で会えるのが楽しみになっていた。
しかし、僕の体はだんだんと悪化しているらしくベッドから起きられない日が続くことがあった。

もし、これで会えなくなってしまったらどうしよう。あの子と、もっとたくさんのことを話したい。そして、いつかこの病気のことも.....

やっと起きれるようになってすぐに桜の木の下へ行くと、四葉に会えた。よかった、とほっとして頬が緩む。
僕は四葉に質問し合おうと提案をして、たくさん話をした。最後に僕は退院したらやりたいことはなにかと聞いた。
ただの興味だ。僕は退院できないから。
四葉は学校に行きたいと言った。たくさん友達をつくりたいとも。四葉らしいと笑顔になる。

「立花くんは?」

そう聞かれて僕は少し戸惑う。

僕は退院できないんだ。

そう言おうとしてやめた。

「僕は...、海に行ってみたい...。この体じゃ行けないから...」

僕の病気に潮風は良くない。行けば寿命を縮めることになる。だけどいつか行ってみたい。そうずっと思っていた。
四葉は少し不思議そうな顔をして、

「ねぇ、立花くんってなんの病気なの?」

そう聞かれて僕はどうしようかと考える。

いつかは話したいと思っていた。でも、今話して嫌われたりしないだろうか。気味悪がられたりしないだろうか。

そんな気持ちがぐるぐる巡り、答えられず俯いてしまう。すると四葉が慌てたように自分の病気について話し始める。優しい笑みを浮かべながら、まるでなんでもないことのように。
決して軽い病気ではない。一般的に辛いというイメージが強い病気だ。薬の副反応も楽なものではない。
それでも、四葉は笑顔で話している。
そんな彼女につられて僕は少しだけ自分の病気について話す。

詳しく話すのは今じゃない。いつか、もっと仲良くなれたら。

そう思い、僕は改めてこの桜の木の下で会いたいと四葉に言った。四葉は満面の笑みで頷いてくれた。
それからお互いを名前で呼び合うことになり、その日は別れる。
僕は体調が平気な時は毎日桜の木の下にいった。四葉も必ずいた。
そして今日、四葉があんな風に泣いて、僕に全部を話してくれて、力になりたいと思わせてくれて。
そのおかげで僕の両親に対する本当の想いに気づかせてくれて。

本当に四葉はすごいな。もう誰とも、親とでさえ関わらなくていいと思っていたのに。初めて友達になりたいと思った。僕の想いに気づかせてくれた。

桜の木を見上げて微笑む。顔を戻すとき、四葉の部屋が目に入った。

大丈夫、四葉なら。きっとうまくいく。

そう願いながら四葉の部屋を見つめた。