「四葉、大丈夫?」

心配そうな颯くんの顔が見えてハンカチを差し出してくれる。

「私、泣いてないよ?」

そう、言って颯くんに笑いかける。颯くんは私の手にハンカチを握らせてからいった。

「うん、でもすごく悲しそうな、寂しそうな顔をしてたから。四葉、泣きたいときは泣いていいんだよ」

泣きたいときは泣いていい
そんなありきたりな言葉は何度もかけてもらったことがある。でも、実際には泣けなかった。
ずっと我慢して抱え込んでいたものを、その言葉ひとつで泣けるようになるわけない。そんなふうに思っていたのに。
颯くんの言葉は優しくて、暖かくて、私の溜め込んでいたものをゆっくりと溶かしていくようだった。

「私....、私.....!」

堪えきれず、私の目からぽろぽろと涙が落ちる。それと一緒に今日のことを少しずつ話していった。颯くんは泣きながら話す私の背中をさすりながら、最後までちゃんときいてくれた。  

「私、それで飛び出してきちゃって......ちゃんと、ちゃんとお母さんと話そうと思ってたのに.....」

泣きながら私はそう呟いた。

そうだ、本当はあんな風にお母さんに言いたかったわけじゃない。私はただ、本当に....

「寂しくて、でもこの寂しさは颯くんやみきちゃんと話しても無くならなくて、どうしてもお母さんじゃなきゃ....」

颯くんは優しく微笑みながら

「その気持ちをもう一度、お母さんと話してきたら?部屋に灯りがついているからきっとまだいると思うよ」

「でも、でもまた、伝わらないかも....」

服の裾を握って俯く。まだ不安は拭えなかった。
すると、颯くんは私の手をとって、

「大丈夫、大丈夫だよ。四葉ならきっと。」

そう言ってくれた。颯くんにそう言われると不思議で、本当に大丈夫だと思えてくる。
私はうなずきゆっくりと立ち上がる。

「そうする。ありがとう、颯くん。私、颯くんが初めての友達でよかった」

私はにこっと笑ってまたねと言い、その場を後にした。