会計ミスの件ですっかり消沈したサヤと一緒に帰宅。
玄関扉を開けて、玄関の照明を点けた後にリビング照明のスイッチを押したが……。
カチ…… カチカチ……
「あれ?」
リビング照明は点灯しない。
何度も指をスライドさせてみたけど、やはり点かない。
蛍光灯の寿命かと思って、玄関の照明を付けっぱなしにしたまま、押し入れから代わりの蛍光灯を取り出した。
颯斗はちゃぶ台の上に足を乗せて古い蛍光灯を取り外した後、新しいものを手に取って付け替えようと手を伸ばす。
沙耶香はちゃぶ台の横からその様子を見守っていたが、左手の甲の傷跡しか目に入って来ない。
「サヤ、真下からだと蛍光灯の位置が合ってるかどうかわからないから、ズレてたら教えて」
「はい。んーとぉ、もう少し右です」
「こっち?」
「もう少し左手前です」
「こっちかな? 部屋が暗いからよく見えないなぁ」
「あと1センチくらい右です」
「えぇっと…1センチ右。お! ハマった」
蛍光灯が装着されたと同時に照明は点灯。
しかし、颯斗は蛍光灯に気を取られるばかりにちゃぶ台の端に重心を置いてしまったせいで、ちゃぶ台が傾いて体勢を崩した。
気付いた沙耶香はすかさず手を差し伸べだが、ちゃぶ台はひっくり返って二人はそのまま床へと転倒する。
ガタン…… ドサッ
「うわっ!」
「キャッ!」
沙耶香はあっという間に颯斗の下敷きになり、互いの唇の距離がおよそ2センチに。
お互いの目と目が最も接近して現実に直面すると、顔を真っ赤にしながら勢いよくバッと離れた。
「わっ! ごごご……ごめん…」
「あっ……あの、私こそごめんなさい。恥ずかしくて……ドキドキして……今にも心臓が壊れそうです……」
ラブアクシデントによって沙耶香は胸の前で手をクロスさせながら颯斗をチラッと見ると、颯斗は照れくさそうに左手で頭をかいていた。
だが、視界に入ってくるのは手の甲の傷跡。
無意識に指摘してしまう。
「颯斗さん、左手の傷跡……」
「あっ、これ?」
颯斗は傷跡を見せてそう言った。
「はい……。その傷跡はどうしたんですか」
「実は数年前に勤務先のコンビニで事件があってね。その時に出来たもの」
颯斗は当時の事件を思い描きながら語ると、沙耶香はクイッと目を逸らした。
「その傷跡。見ていて……、辛いです」
「どうしてサヤが?」
「何でもありません……」
沙耶香は元気のない声でそう言い、台所に向かってヘアバンド装着後にメイクを落とし始めた。
颯斗は軽く首を傾けながらも、ちゃぶ台を片付けた後に押し入れから布団を出して敷き始めた。