「な、何かお探しですか……?」
店員として何気ない営業的なひと言だが、既にパンパンに膨らんでいる風船に針を突っついたように沙耶香の心を刺激する。
行こう。
今しかない。
今行かなきゃ絶対後悔する。
この瞬間の為に父親に誓約書を叩きつけて家を出て来たんだから。
昨日心に決めたんだから。
私に残された時間はあと一ヶ月間しか……。
沙耶香は後ろ向きな気持ちとおさらばして唇を噛み締めながらガバッと見上げて言った。
「とっ……突然ですみません」
「はい?」
「あなたの時間はいくらで買えますか?」
颯斗は、見ず知らずの無表情な沙耶香の突拍子もない言動に思わず耳を疑った。
「えっ……。な、何言ってん……です……か?」
颯斗はポカンと口を開けていると、沙耶香はハンドバッグを開けて帯付きの札束を手に取り出した。
「お金はあります。だから、報酬と引き換えにあなたの時間を下さい」
札束を両手に持ち直して受け取れと言わんばかりに向ける。
颯斗は目が点になったまま札束を見ると、一センチにまとめられたピン札を囲むように一枚の銀行印付きの帯がついている。
その金額は100万円。
沙耶香との距離は一メートルだが、現金はどう見ても本物。
ほんの僅かに金の香りが漂っている。