天気は晴れ。
これ以上ない旅立ち日和だ。

トラックに荷物を積み込み、見送る。
電車の時間まではまだ余裕がある。

「お母さん、お父さんに会いに行こう」

きっと、お父さんも祝ってくれるでしょ?
母の手を取る。

向かうのはお父さんの眠る場所。
海の見える丘の上。

毎年、お墓参りには来てるけど今回はちょっと心持ちが違う。

墓石の前で手を合わせる。

「お父さん、私この町を出て行くね。1人で頑張ってみる。私は大丈夫だよ。だから、ちゃんとその間お母さんを見守っててね」

静かに暖かな春風が吹き抜ける。
それは一枚の桜の花びらを舞上げ、遠くに飛ばして行く。

私はこれから看護師になる。
きっと、いろんな生と死と向き合うことになる。
そのどれにもそれぞれの物語があって、人の数だけ感情がある。

まだ、今はわからないけど。
きっとあの時の父のこと、母のこと、いつかわかる日が来るんだろう。

その時はあの手紙もDVDもちゃんと見れる気がする。

私は父が嫌いだ。
嘘つきで、不器用で、わかりにくい優しさと強さを持ったそんな父が。

だから、忘れてやるもんか。
私の生き様見せつけてやる。

父の分まで、この人生を精一杯愛し切ってやる。

別れと始まりの春。
どこまでも爽やかな風がそっと背中を押してくれた。