父との最期の記憶。
あの時、家族が揃うのはこの家じゃなかった。
いつだってあの白くて静かな病室。
以前から時々、パパは家を空けることがあった。
ママと2人で夜を明かすことも何度もあった。
それでも、次の日にはドアを潜って帰ってきていた。「ただいま」って笑顔で。
でも、ある時から帰ってこなくなった。
それが寂しくて、「パパいつ帰ってくるの?」
そうママにもパパにも聞いたけど、2人とも笑ってもう少したらねって。
もう少しがどのくらいかわからなかったけど、また皆でお家に帰れるならいいかなって思ってた。
でも、少しずつパパは笑わなくなった。
口数はどんどん減って、時々何かに怒ってて。
それでも、私はママとパパに会いにいった。
大好きだったから。
ある時からママはパパの側で泣くようになった。
声も出さずに静かに。
そんなママをパパは決して慰めはしなかった。
大丈夫だよって泣かないでって、一言言って手を伸ばしてくれればいいのに。
白いベッドに横たわったまま、泣いてるママからそっぽをむいて。
不機嫌そうに頭の上まで布団をかぶって。
『パパ!ママをイジメないでよ!』
そう言って大声で怒っても何も言わない。
布団からも出てきてくれない。
怒る私をそっと撫でてくれたのはママだった。
目を真っ赤にしながら、辛そうに笑って。
私の声に驚いたのか慌てたように看護師さんが入ってきた。「どうしたの?」って。
私はすぐさま駆け寄って、告げ口した。
『パパがママを泣かすの!』
って。
なんだか悔しくて泣いちゃった。
看護師さんはママ達の方見て、小さく頭を下げると優しく視線を合わせてくれた。
『ちょっとママとパパに仲直りしてもらおっか』
そう言って笑って。
看護師さんと部屋を出て、お菓子もらってお話しして。
途中パパ達にも持っていくねってお部屋に何か持って行って。
しばらく看護師さん達と遊んでいると綺麗な音楽が鳴って、看護師さんは電話で少しお話ししてた。
『お部屋戻ろっか』
そう言って手を取ってくれた。
看護師さんとお部屋に戻った。
パパは布団から出てきてたけど、ちょっとムスッとしてた。
ママは私を見て笑った。「おかえり」って。
『仲直りした?』
『うん。優ちゃんのおかげ。ね?パパ』
『ん』
小さな声だったけど、パパはそう言った。
ちょっと納得しなかったけど。
2人がいいならそれでいい。
その日はそのままママと帰ったけど。
その後も同じ。
ママはパパの隣で泣いて、パパはそれに何も言わない。
『パパ!ママを泣かさないでって言ってるでしょ?』
そういうと、パパ少し私を見てそのままママを見る。
『早く帰れ』
それだけ言ってお布団に潜っちゃった。
幼い自分にもその声は冷たく鋭く刺さった。
ママは泣きながらそれでも笑って立ち上がる。
『優歌、帰ろっか。パパちょっと疲れちゃったみたい』
ママに手を引かれ、部屋を出る。
ドアが閉まる直前にパパの小さな声が聞こえた気がした。
気のせいだったのかもしれないけど。
入れ替わりでお部屋に入っていく看護師さんに手を振ってお家に帰った。
少しずつ確実に3人の時間も静かになっていく。
それでも、ママはパパのところに行く。
とても静かな病室。
窓からの景色も変わらない。
遠くに冬の冷たい海が見える。
寒くて冷たい。
家にいる時はそうじゃなかったのに。
笑顔で優しくて大好きだったのに。
でもきっとそれは今だけ。
ここはお家じゃないからね。
また、家に帰ればあの日々が戻ってくるんだと信じてた。
そしたら、また3人で笑えるんだって。
だんだんママは笑えなくなった。
ごめんって言いながら家でも泣いて。
夜も一人で家を出ていく。
きっとパパのところだ。
パパはママを泣かすくせに、夜も私からママをとっちゃうんだ。
でもきっと、そろそろ2人は帰ってくる。
笑いながら、ごめんねって。
また優しく笑って名前を呼んで
その大きな手で頭を撫でてくれるんだ。
そしたら、私も仕方がないから許してあげる。
また、一緒に隣で寝てあげる。
でも、結局パパは帰ってこなかった。
遠くに行っちゃったんだって。
そして、パパが。
お父さんが亡くなったんだってようやく理解できたのはそれから数年経ってからだった。
あの時、家族が揃うのはこの家じゃなかった。
いつだってあの白くて静かな病室。
以前から時々、パパは家を空けることがあった。
ママと2人で夜を明かすことも何度もあった。
それでも、次の日にはドアを潜って帰ってきていた。「ただいま」って笑顔で。
でも、ある時から帰ってこなくなった。
それが寂しくて、「パパいつ帰ってくるの?」
そうママにもパパにも聞いたけど、2人とも笑ってもう少したらねって。
もう少しがどのくらいかわからなかったけど、また皆でお家に帰れるならいいかなって思ってた。
でも、少しずつパパは笑わなくなった。
口数はどんどん減って、時々何かに怒ってて。
それでも、私はママとパパに会いにいった。
大好きだったから。
ある時からママはパパの側で泣くようになった。
声も出さずに静かに。
そんなママをパパは決して慰めはしなかった。
大丈夫だよって泣かないでって、一言言って手を伸ばしてくれればいいのに。
白いベッドに横たわったまま、泣いてるママからそっぽをむいて。
不機嫌そうに頭の上まで布団をかぶって。
『パパ!ママをイジメないでよ!』
そう言って大声で怒っても何も言わない。
布団からも出てきてくれない。
怒る私をそっと撫でてくれたのはママだった。
目を真っ赤にしながら、辛そうに笑って。
私の声に驚いたのか慌てたように看護師さんが入ってきた。「どうしたの?」って。
私はすぐさま駆け寄って、告げ口した。
『パパがママを泣かすの!』
って。
なんだか悔しくて泣いちゃった。
看護師さんはママ達の方見て、小さく頭を下げると優しく視線を合わせてくれた。
『ちょっとママとパパに仲直りしてもらおっか』
そう言って笑って。
看護師さんと部屋を出て、お菓子もらってお話しして。
途中パパ達にも持っていくねってお部屋に何か持って行って。
しばらく看護師さん達と遊んでいると綺麗な音楽が鳴って、看護師さんは電話で少しお話ししてた。
『お部屋戻ろっか』
そう言って手を取ってくれた。
看護師さんとお部屋に戻った。
パパは布団から出てきてたけど、ちょっとムスッとしてた。
ママは私を見て笑った。「おかえり」って。
『仲直りした?』
『うん。優ちゃんのおかげ。ね?パパ』
『ん』
小さな声だったけど、パパはそう言った。
ちょっと納得しなかったけど。
2人がいいならそれでいい。
その日はそのままママと帰ったけど。
その後も同じ。
ママはパパの隣で泣いて、パパはそれに何も言わない。
『パパ!ママを泣かさないでって言ってるでしょ?』
そういうと、パパ少し私を見てそのままママを見る。
『早く帰れ』
それだけ言ってお布団に潜っちゃった。
幼い自分にもその声は冷たく鋭く刺さった。
ママは泣きながらそれでも笑って立ち上がる。
『優歌、帰ろっか。パパちょっと疲れちゃったみたい』
ママに手を引かれ、部屋を出る。
ドアが閉まる直前にパパの小さな声が聞こえた気がした。
気のせいだったのかもしれないけど。
入れ替わりでお部屋に入っていく看護師さんに手を振ってお家に帰った。
少しずつ確実に3人の時間も静かになっていく。
それでも、ママはパパのところに行く。
とても静かな病室。
窓からの景色も変わらない。
遠くに冬の冷たい海が見える。
寒くて冷たい。
家にいる時はそうじゃなかったのに。
笑顔で優しくて大好きだったのに。
でもきっとそれは今だけ。
ここはお家じゃないからね。
また、家に帰ればあの日々が戻ってくるんだと信じてた。
そしたら、また3人で笑えるんだって。
だんだんママは笑えなくなった。
ごめんって言いながら家でも泣いて。
夜も一人で家を出ていく。
きっとパパのところだ。
パパはママを泣かすくせに、夜も私からママをとっちゃうんだ。
でもきっと、そろそろ2人は帰ってくる。
笑いながら、ごめんねって。
また優しく笑って名前を呼んで
その大きな手で頭を撫でてくれるんだ。
そしたら、私も仕方がないから許してあげる。
また、一緒に隣で寝てあげる。
でも、結局パパは帰ってこなかった。
遠くに行っちゃったんだって。
そして、パパが。
お父さんが亡くなったんだってようやく理解できたのはそれから数年経ってからだった。