花の雨

「茜……茜がいたから、僕は幸せになれたんだよ」
「……もう、いやねえ。泣き虫な姉と弟って思われちゃうわね」
茜はレースのハンカチで涙を拭うと、僕と由紀の肩に手を置いた。
「由紀ちゃん。今日の譲は、わんわん泣くわよー。勘弁してやってね」
「大丈夫です! 頭をなでなでしますから。茜さんにもしますか?」
「え、いいの? ……いやあ、やめておくわ。新婚さんの邪魔はしたくないなあ」
「そう言いつつ、また泣いてるじゃないか。花に触ったの?」
「……ううん、これは……」
茜は言い終わる前に辺りを見渡した。
花にふれた参列者たちが、興奮気味に話している。
「これで、魔女がどんなものかみんな覚えていてくれるかしら」
「うん、忘れないよ」
「そうよね。最後の魔女として、誇りに思うわ。さあ、由紀ちゃん、譲! お姉ちゃんが花の雨をバックに写真を撮ってあげる!」
「それなら、三人で撮りましょう」
「もう、由紀ちゃんたら……」
「由紀。僕はきみと結婚できてうれしいよ。ありがとう」
笑顔の由紀が僕に抱きつく。
「ああ! シャッターチャンスだったのに!」
茜は泣き笑いの表情を見せた。僕は、涙を拭う茜に声をかけた。
「昨夜、僕が言ったことを覚えてる?」
「ええ」
「茜、生きていいんだよ。ひとりの人としての人生を」
「そうね……そうね。私、もっと欲張りになる!」
「そうです、茜さん!」
由紀はとても真剣な表情だった。
「茜さん、いままで譲さんを守っていただきありがとうございます。これからは私のことも、茜さんの家族って思ってください! 私、私……魔法は全然使えないけれど、おしゃべりならできます! おもしろいことも、そうでもないことも、話しましょう! おたがいおばあちゃんになっても!」
「由紀ちゃん……」
茜は驚いたような表情を見せたあと、笑顔になった。
「……ねえ、譲。私もう、見つけたわ。ひとり」
「うん、そうみたいだね」
「なにをですか?」
首を傾げる由紀を、茜は抱きしめた。
「私のたいせつなひとよ、由紀ちゃん! 譲と同じくらい、とっても、とっても、たいせつなひと!」
茜の頬を、きらきらにひかる涙が伝う。
僕にはわかるよ、茜。
その涙はよろこびの涙だって。

【了】