「それは何?」

 美月は、宮司率いる神官たちの手に持っている供え物を見て引き止めた。

「これは美月様。ご婚約おめでとうございます」
 宮司は、久しぶりに顔を合わせた美月に深々と頭を垂らす。
「ええ、ありがとう。それでそれはなんなの?」
 美月は自分の祝辞を述べられたことより、神官たちの持っている物が気にかかりそちらに頭がいっていたため、礼もおざなりだ。

「神へのお納め物でございます」
「今までは神饌で食料ではなかった?」

 月に一度のお納め物は、神饌が基本だ。
 米や酒、季節の果物や野菜に塩、時々魚など季節の旬の物が納められる。

 それは美月も知っていた。
 だからこそ、今回のお供え物が気になったのだ。
 何せ、見ただけでもわかる上等な絹の反物や珊瑚や真珠など女性の装飾に利用する素材が長膳や三宝に供えられているのだから。
 しかも、その品々には見覚えがある。

「さようでございます。しかしながら直、本宮の建て直しが終了いたしますので、新しい宮に行く際に新しいお召し物のお支度をしていただくためにご用意いたしました」
「どうして……? どういうこと?」
「はて……? それはどういう意味でございましょう?」
「だって、神が手に取って持って行くわけじゃないでしょう。時間をおいて回収するのでしょう?その間に誰かに盗まれたらどうするの?」

 そうだ、今までは食料等の材料だったから、盗まれようと気にしていなかった。
 村人たちの腹の足しになるだろうし、残ったら宮司たちの食事になる。
 けれど、今回は別だ。

「盗むような罰当たりな者が村にいるとは思いませんが、万が一のために仮宮の奥にお納めして鍵を閉める所存でございます。それに仮宮は槙山家の敷地内。ご安心でしょう」
「それはそうだけれど……珊瑚や真珠とか、他の鉱石とかその反物だって鷹司家が用意してくれたものじゃない。……私の嫁入り支度の一部だわ。もし誰かに取られたりしたらどうするの? どうしてわたしの物を使うの?」

「権宮司である美月様のお父君からいただいたものですが……」
「そんなのおかしいわ! お父さまに言ってくる!」

 美月は声を荒げ宮司に言うと、父の元へ向かった。
(嫌よ、いや! いずれ戻ってくるって言っても、あの『女』に献上するってことよ? どうして私の物を一時的でも渡さなくちゃいけないの?)

 美月は大嫌いなあの『女』が自分の目の届くところからいなくなったどころか、消えて清々していた。
 仮宮の鳥居をくぐったら消えた、と聞いて荒神の存在にゾッと怖気立ったが、厄介払いができた上に繁栄を約束してくれるのなら、万々歳だった。

 けれど――

 献上品を納めるということは、あの『女』を飲み込んだ神に渡すということだ。

(あの『女』を食べて体の一部にした神に何も渡したくない!)

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、というが美月はもうあの『女』に関わること全てが嫌いだ。

 当然、食らった神をも嫌うという結果に陥っていたのだ。