娘を溺愛している両親が、そして兄が、エステルのことを考えてどうにか王太子の婚約者でさせなくすることが――婚約者に決まって数年だった頃は、怖かったのかもしれない。

 七歳で出会って、あれから十一年。

 当時は幼い。それでいてまだ年の浅ければ、多少の力業で公爵家から引き下げもできただろうが。

 とっくに、その期間は超えてしまった。

(そう、私が悪いの)

 あの事件が起こる前に、数回会っただけでどんどん恋をして、将来は彼の妻になるのかと胸をときめかせた。

 失望させたと分かった深い悲しみの中でも、恋をして間もない女の子には、自分からどうすることもできずに――それから数年、アンドレアへの想いは愛となった。叶わないからこそ思いはどんどん膨らんだ。

 いまさら両親に、公爵令嬢としての落ち着き以外の何を見せていいのかも分からないくらいに、エステルは立派なレディになっていた。

「何かあるのかね?」
「…………」

 微笑み、ただただ口を閉ざす。

 沈黙は肯定だったが、父も母もエステルが心を知らせていないから、やはり分からないようで顔を見合わせていた。