「俺といると、君は余計な危険に晒される」

 見つめ合ったアンドレアが、くしゃりと目を細めた。

 泣きそうな顔だとエステルは思った。同じくらい、彼女の胸も詰まった。

 彼が手を組み、視線をそちらに向けながらきゅっと握り合わせた。

「すまなかった」

 告げられた声は、かすれていた。

「君のことが、あの短い間に、とても大切になっていたから、……かけがえのない女の子になっていたんだ。初めて、大切になった子だった」
「アンドレア……」
「俺は、君には、幸せになって欲しかったんだ」

 俯く彼の横顔は、苦しそうだった。

 まるで、泣けない涙をその目から流しているみたいに見えた。

 その代わりのようにエステルは素直に泣いた。

「私の幸せなら、あなたの隣にあります」

 彼女の深いアメシストの目から、はらはらと涙がこぼれ落ちていく。

「……私は……あなたが、好きなの……好きだったの、ずっと……」

 好き、そう告げた途端に涙腺は崩壊した。

 恋をした。だから一層、彼に背を向けられることは苦しくて仕方がなかった。