エステルは大怪我をしたあの時も、痛くて苦しいのを幼いながら我慢してまで『彼に安心して欲しい』と思って、どうにか笑った。

 アンドレアがティーカップを置く。

「君が生きるには、過酷すぎる世界だと思った」

 エステルは息を呑む。

「まさか私が、怪我をしたから?」

 身を乗り出すかのような彼女の動きに、両手に持っていたティーカップの中身が大きく揺れる。

 アンドレアがそちらを見て「危ないよ」と言い、片手で持ち上げ、テーブルへとおいた。

 そんな優しさにも、エステルは胸がきゅぅっと締めつけられた。

「答えてください、アンドレア」

 ずるいと思いながらも、彼の名前を呼ぶ。

「……そうだ。君が怪我をした。もう少しで君は、死ぬところだった」

 出血量が、もう少し多かったら死んでいたとはエステルも聞いていた。

 幸いにして彼女の癒し属性の魔力が、医療魔法へと傾き、自身の血流を操ったから最悪の事態は免れた。

「なら過酷というのは、あなたと生きるには、ということですか?」