「あの頃は……すべて、うまくいくと思っていました」

 そう思い返し、また彼が隣にいると思ったら、安心感にゆったりと包まれて言葉が素直に出ていた。

「婚約者として指名を受けたことにひどく緊張して、王子様と会うなんてと、王宮に行く日も弱音をこぼして」

 聞いているアンドレアが「ああ、やはりそうだったのか」なんて言っている。

 エステルは、少しだけおかしくなって苦笑をもらした。

「けれど一目会った際に、不安も飛んでしまったんです。あなたが……手を差し出してきて、話題を振ってくださったから」

 気圧されるような美しさに見惚れて、緊張した。

 だが、はにかむように彼は笑って手を差し出してきて、一人の男の子なのだとエステルは思った。

 そして二人で王宮の庭園を歩きながら話したその日に、エステルは、彼とならいい夫婦になれるのではないかと思ったのだ。

「魔力の相性がいいせいだろうな」
「魔力?」
「心地よく感じる魔力の波長同士がある。俺と、君がそうだった」