すると何度かれたキスの甘く切ない気持ちが込み上げて、自分を抱きしめた。

(でも――)

 とても、必死なのは伝わってきたから。

『頼む、待っていてくれ』

 戻らないでくれと、アンドレアはエステルに言った。

(なら私は……彼の望むように、ここで、待つわ)

 屋敷に戻った際、両親と兄にもそれは伝えていた。

 また、つらい話題を新聞で見かけたり、噂を聞いたりするかもしれない。

 それでも彼のために少し待とう。

 胸の、期待するたいな甘いときめきの音を聞いていたら、明日への不安も小さくなっていった。

 そうして気づいたら、エステルは久しぶりに苦しさから解放されたような眠りに落ちていた。

       ∞・∞・∞・∞・∞

 けれど、予期していた苦しいことは王都の屋敷滞在でやってこなかった。

 舞踏会の翌日、朝一番に何か知らせてがあったみたいで父と兄も忙しそうに外出していった。

 それを『忙しそうねぇ』なんて、他人事で見送ったのは驚くことに、あれよあれよと言う間にエステルの状況は変わっていってしまったせいでもある。