あれは、エステルのことを知っていたからだ。

 ベルンディ公爵家が、嫁ぎ先の変更をいまだ頑として何度も申請しているのも、彼女の父のベルンディ公爵と跡取りであるエステルの兄も協力者だからだ。

 エステルの心は、まだ、アンドレアに少しは残されている。

 あれだけ完璧な公爵令嬢と言われている彼女が、涙を流し、泣き、苦しむほど――。

「それなら、あとは行動するのみだ」

 もう、迷わない。
 アンドレアは立ち上がり、使用人を呼ぶためのベルを鳴らした。

 突き放そうとしたことでエステルをかえって深く傷つけてしまった。

 もう、そんなことは二度としないと違う。

       ∞・∞・∞・∞・∞

 エステルは父達と共に、そのまま舞踏会から帰宅することになった。

 ドレスを脱ぎ、湯あみを済ませてベッドに横になったものの、眠気などきそうにない。

 アンドレアからの、突然のキスだった。

(わけが分からないわ……)

 思い返すだけで、熱を持つ唇をそっと撫でる。