放課後デートをした翌日、登校したらすぐさまコハルに捕まった。

「ミイ、ツムグといつから付き合ってるの? どっちから告ったの?」
「先週の土曜から。別に隠してたわけじゃないんだよ? ただ、付き合い始めたばっかりで……」

 私から報告がなかったことについては、責めるつもりはないみたい。焦る私の言い訳に、コハルは『それで? それで?』と続きを急かしてきた。
 でも、私たちはどちらからも告っていない。
 私とツムグはそういうのではない。
 私の最後の思い出作りに、ツムグが協力してくれているだけ。
 とはいえ、それを説明するのは難しかった。
 だって私の病気のことを公表していないから。
 学校で知っているのは、担任と養護の先生、それとツムグだけ。

「な、内緒!」
「えーっ、2人だけの秘密ってやつ? あんだけラブラブなとこ見せつけておいて?」
「ら、ラブラブーっ!?」

 コハルがニマニマする。

「ほら、食べさせてやるよ。ミイ、あーんして」

 コハルがエア・たい焼きを私の口元に差し出した。

「や、やめてよー。ツムグはそんなこと言ってないし!」

 コハルは『ぷっ』と吹き出した。

「ごめん、ごめん。ようやくミイの恋が叶ったのが嬉しくって、つい揶揄っちゃった」
「だーかーらー、私とツムグはそんなんじゃないよ。自分でもびっくりするぐらい、急展開で付き合うことになったの!」
「照れちゃってー」

 コハルが肘で私を突く。

「ミイの気持ちなんて、バレバレだったよ」
「えっ、やだ! 嘘でしょ!?」

 顔が熱くなる。
 なら、ツムグも気づいて……
 ないな、あれは。うん。

「ツムグって誰から告られても断ってたけど、なーんだ。ツムグもミイのこと好きだったんだね」
「違う、違う。ツムグの方は本当に私のことを好きとかそういうんじゃないの」

 まあ、私の方はぶっちゃけると『そういうの』なんだけれど……。

「またまたー」
「ホント、ホントに違うの!」
「そうなの? でもこれから好きになってもらえばいいんだもんね!」

 ツムグが私を好きになってくれる可能性……そんなの、ある?
 もしそうなら、もうすぐ死ななければならないことが惜しくてたまらなくなる。
 いつもそばにいたツムグ。
 叶わないと知りつつ、これから先もずっとそばにいたい、とつい願ってしまう。
 あっ、そう考えてみると、そのツムグを想うこの恋心もやっぱり私とずっと一緒にあったんだなー。
 私が育てた最も純粋でキレイなもの。
 恥ずかしくて誰にも打ち明けられなかった。
 いつかツムグの方から見つけて……と祈ってきた。
 私が死んでしまったら、この恋も消えてしまう?
 それってすごく淋しい。
 永久保存できたらいいのに……


 その日の夜、ベッドに入って目を閉じ、考えた。
 休日デート、どこがいいかな?
 映画館だと……1番後ろの席ならいいけど、そうでなかったら、キスするところを他の人に見られちゃう。
 だったら動物園? でも動物園って、けっこう動物の匂いがした気がする。キスしたい場所じゃないかも。
 あっ、小学校の校外学習で行った科学館は? ツムグ、そういうの好きだし、プラネタリウムならみんな上を向いているから、こっそりキスできそう……
 …………
やだっ! 私、さっきからデートする場所じゃなくて、キスする場所を考えている……
 頭の中がキスでいっぱいなことに気づいて、途端に恥ずかしくなる。
 でも、ツムグも今、私とキスすることを考えてドキドキしている気がした。
 頬にはまだ余韻が残ったままだった。