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私たちは立ち上がると、どちらからともなく自然に手をつないでお肉屋さんに向かった。
私がメンチカツを買い終えると、ツムグが心底羨ましそうにつぶやいた。
「ミイの家は今夜メンチカツかー。いいなー」
「なら、ツムグも1個買って、食べながら帰ったら?」
「俺だけ食べるのもなー。次に商店街デートするときには、メンチカツの買い食いにしない?」
しつこいぐらいに次の約束を取り付けようとしてくれるツムグに対して、『ありがとう』って気持ちでいっぱいになる。
「約束な。絶対だから」
「うん、うん。そうしようね」
「でも休日デートを先にしようか? もうすぐ中間テストだろ。テスト終わってすぐの週末にしない?」
「うわー、テスト!」
「デートを楽しみにがんばれ」
「私がデートプランを決めていい?」
「もちろん。行きたい場所、やりたいこと、何でもいいから考えておいて」
「行きたい場所はこれから考えておく……でも、やりたいこと……というか、やってほしいことは決まってる」
「やってほしいことって、俺に? いいよ、何でも言えよ」
すでに商店街を出て、住宅街を歩いていた。
商店街を歩いていたさっきまでと違って、人通りは少なく静かになっていた。
私からツムグにこんなこと直球でお願いしないといけないなんて、めちゃくちゃ恥ずかしいっっ!!
でもこのままじゃ心残りだ。死んでも死にきれない。
それにツムグは、私の願望はすでに知ってるんだし……
ええいっ!
ツムグとつないでいる方の手に、思わず力が入った。
「……キス……してほしい……」
しばらくの沈黙のあと、ツムグが口を開いた。
「……なあ、思ったんだけど、好きでもないのに一応付き合ったからって俺とキスしたら、逆に後悔しないか?」
馬鹿。鈍感。
「後悔なんてしない。ツムグ……にしてほしい」
ここまで言ってる意味に気づいて。
とてもではないけれど、私からはこれ以上言えそうにない。
「分かった」
ツムグも私の手を握り返してきた。
「うわー、俺、家出る前にめちゃくちゃ歯を磨くと思う」
「ぷぷっ、何それー」
笑い飛ばしながらも、尋常じゃないほど私の胸は躍った。
でも……
自分から言い出したくせに、不安が襲ってきた。
ツムグは今どんな気持ちでいる?
ツムグは私と同じ気持ちでキスしてくれるわけではないんだよね。
それは仕方ない。そこまで望むつもりはない。
だけど、嫌じゃないかな?
我慢してまでキスしてほしくないかも……。
「……ねえ、ツムグこそ私が死んじゃうからってキスして、後悔したり……しない?」
「しないっ!」
ツムグが突然大きな声を出すから、反射的に私の肩がビクッと大きく振れてしまった。
「あっ、悪い。でも、後悔することはないから」
「な、ならいいんだ」
真剣に訴えられて、ドキドキしながら歩いた。
私の家はもうすぐそこ。そしてその3軒向こうがツムグの家。
「あのさ、休日デートのとき、いきなりキスすんのってハードル高いんだ」
「うん……?」
そこまで話したところで私の家に着いてしまった。
ツムグの言葉は耳には入ってきたはずなのに、唐突すぎて頭が働かなかった。
私は門扉に手をかけ、ツムグとつないでいる手を離そうとした。
そうしたら逆に強く手を握られ、そしてツムグの方に引っ張られた。
ツムグは少し屈んだ。
私の顔にツムグの息がかかった。
そして、私の頬に何かが触れた。
今のって……
「て、テスト勉強がんばれよっ!」
私に背を向けてからそう叫ぶと、ツムグは自分の家に向かって走っていってしまった。
頬にはまだ感触が残っていた。
その余韻に浸りながら、私はツムグの後ろ姿を見つめた。
ツムグは自分の家に着くと、窺うようにこっちを見た。
私は胸の高さで手を小さく振ってみた。
するとツムグも軽く振り返してくれた。
それから私たちは、それぞれの家に同時に入った。