心地いい風が私の髪を揺らす。
 天気がよくて気持ちがいい。ふわふわな雲の上で寝ているみたい。

「ツムグくん、来てくれたのね……」

 あっ、この声知ってる。
 私を大事にしてくれる人。そして、私にとっても大事な人。

「今朝起きてこなくて、部屋まで起こしに行ったんだけど、目を開けなくて……それで救急車を呼んだの……」

 泣いてるの?
 哀しいことでもあったのかな?
 こんな素敵な日にもったいないよ。

「花を買ってきたんですけど……」

 この声も知ってるよ!
 私の大好きな人の声!!
 小っちゃい頃からずーっと好きなの。

「ありがとう。もしかしたら、においは分かるかもしれない」

 カサカサッという音が近づいてきて、私の鼻を植物のかおりがくすぐった。

「もっとにおいの強い花にすればよかったですね。薔薇とか……」
「ううん、そんなことない。ミイ、ツムグくんがミイの好きなガーベラを持ってきてくれたわよ」

 そうだ、ミイって私の名前だ!
 でも、ガーベラって? それって何だっけ……
 でもいいや。
 それが何であってもうれしいから。

「花瓶に生けたいから、ツムグくんはそこに座って、ミイのそばにいてくれる?」
「あ、はい」

 パタパタという足音が消えると、すぐ隣でキイッという音がした。

「ミイ、」

 私の大好きな人が、私の耳元でそっと囁いた。
 その人の指が私の頬にそうっと触れた。それから上から下へなぞった。
 ふふっ、くすぐったーい!
 でもこの手も大好き。

「ミイ、俺まだミイに言ってないことがあるんだ」

 それ、なあに?
 聞きたいのに、私の口は開いてくれない。

「俺、ミイのこと好きなんだ。それもずっと昔から」

 途端に私の心臓はドキドキし始める。

「ミイは俺の気持ち、実は気づいてた? だからキスさせてくれたのかな?」

 私、気づいてたのかな……
 ううん、知らなかったと思う。
 その証拠に、私の心臓はこんなにもバックバクになっている。
 逆に、私があなたのことを好きってこと、あなたは気づいてないの?
 私の胸の1番奥で、宝石みたいに大切にしているのは『ツムグ、大好き』って気持ち。
 ツムグって、絶対あなたでしょ?
 あなたが『ミイ』って呼びかける度、あなたが私に触れる度、しあわせが溢れ出すんだから。
 でも、この恋心、箱に入れたまま大事に大事にしすぎたせいで、あなたに気づいてもらえていないのかな?
 どうして秘密にしてたんだろ?
 自分のことなのに、さっぱりだった。
 でも、どうせ大した理由じゃない気がする。
 『あなたが大好き、あなたのお陰で私はこんなにしあわせ』って伝えたらよかったのに……

「ミイ……」

 イスから立ち上がる気配がした。
 あっ、嫌!
 けれど、袖をつかむことも叫ぶこともできない。
 さっきから、やたらと眠くて体が重い。
 でも行かないでほしい! ここにいて!
 そう願ったすぐあとに、大好きな手が私の目の端を拭った。

「ミイ、どうして泣くんだ?」

 えっ、私って今泣いてるの?
 手を動かすことも、声を上げることもできないのに、涙は流せるの?

「この涙を都合よく解釈していい?」

 ツムグは両手で私の両頬を包んだ。
 それから少しして、私の唇は優しく、だけどしっかりと塞がれた。
 私の体はこれ以上ないくらいのしあわせな気持ちで満たされて、ふわふわと浮いていく。
 眠くてもう限界。
 そっか、この時間はこのまま永遠になるんだね。
 ありがとう、私に永遠をくれて……

 ツムグ、大好き……大好きだよ……


 ずっと、ずーっと大好き…………





END