彼の主治医は菅田先生と呼ばれる小児科の先生だった。穂積のお父さんの部下なので、わたしも何度か会ったことがあった。



「穂積くんを救いたいんです」



 今思えばその時のわたしは、自分より地獄にいる穂積を見て、安心したいだけだったんだと思う。それでも菅田先生はわたしの提案をのんでくれた。もしかしたらそれをわかっていたかもしれない。

 そうして、わたしの提案から生まれた嘘の計画——それが、“アイ・ターミナルケア”だった。

 実際わたしはAIみたいなものだ。身体がほとんど機械なのだから。

 でもよりそれらしくするために、穂積の名前を「ホヅミ」と呼んだり、たまに言葉の意味が分からないふりをしたりした。検索するふりもした。そのために夜な夜な勉強をして、頭の中に知識を叩き込んだ。

 あれはまだ小学校の頃だったと思う。コンビニに二人で買い物に行った時、わたしが何かにつまづいて転んでしまった。それでもわたしの膝は機械だ。擦りむけることはおろか、痛みも感じない。

 それなのに、穂積は「セナ、大丈夫?」と慌てて駆け寄ってきた。



「大丈夫だよ」

「ほんとに?」

「うん」

「よかったよ、セナが壊れちゃったら大変だからね」



 穂積はまったく疑うことなく、わたしがAIだと信じきっていた。

 それなのに、どうして、怪我の心配なんてするんだろう。

 それから、穂積のことが気になって仕方なくなった。穂積が女子と話すと心がざわめいた。そう言う日は、妙にくっついてみたりもした。



「なに、セナ」

「寒い」

「寒がりだね」



 それでよかった。
 よかった、はずだった。

 いつからだろうか、
 それじゃあ、満足できなくなっていたのは。