ちょうどこの屋根の下。
ここに両手で抱えられる程度のダンボールが不自然に置かれていた。
振り込む雨のせいで濡れたソコからは、か細い声が聞こえてくる。
興味本位で覗くとそこには小さな子犬の姿があった。
その白い子犬は濡れてその寒さからなのか、はたまた一匹でこの場所に置いて行かれた恐怖からなのか、その小さな体をさらに縮めて震えていた。
思わず手を伸ばし、その濡れた小さな背中に触れると子犬はビクッと体を揺らし、頭を持ち上げた。
向けられた黒いまん丸の瞳からは明らかな恐怖が伺える。
それでも、子犬は触れた温もりを求めるように擦り寄ってきたんだ。
「…捨てられたのか、お前」
ソッと小さな体を抱き上げる。
子犬は抵抗しなかった。
視線を合わせると、丸い黒目を揺らしながらジッとこちらを見つめてきた。
カバンからタオルを取り出して拭いてやる。
いざという時のために、この時期は毎日持つようにしている。
カバンはびしょびしょだが、これは濡れてなくて助かった。
ある程度拭いて地面に下ろすと、ぶるぶると体を揺らして、こちらに近づいてくる。
その時にはすでに警戒心なんて消えたようで、キラキラと何かを期待した目で見てきた。
「お前は単純なやつだな」
そういえばと、もう一度カバンを漁る。
そこには朝学校で会った時に、紫音からもらった小袋のビスケット。
それを割って口元に持っていってやると、クンクン匂いを嗅いだ後、嬉しそうに食べ出した。
「ここは濡れて寒いよな」
土砂降りの雨は続く。
家に連れて帰ることがふと頭に浮かんだが、両親の顔が浮かび、断念。
犬を飼うなんて。
そんなもん許してくれるわけがない。
「ごめんな。来れる日はちゃんと来るからな」
何もわからないというように首を傾げる子犬の頭を撫でた。