陰霖に揺れるキミ


「また明日ねー!」

「バイバーイ!」

終わりを告げるチャイム。
教師が口早にホームルームを締めくくる。

日直の号令が終わると、途端に活気に満ちた声がワッと飛び交う。
部活のあるものは慌ただしく、教室を飛び出して行く。
中には一人の机に集まり、談笑を始める生徒達もいる。

そんな同級生達を横目に荷物を抱えるとそそくさと教室を出た。
放課後の湧き立つ喧騒を潜り抜け、玄関へ出る。

靴を履きかえた時、後ろから声がかかった。

「あ、夏輝ー!」

「げ、うるさいのが来た」

振り返ると一人の女子生徒がニコニコしながら、こちらに手を振って駆けてくる。
弾むたびに明るい茶色のポニーテールが揺れる。

彼女は紫音。
クラスは違うが、小中高同じで家も近いことから、幼い頃から親しくしている。
所謂幼馴染ってやつだ。
明るく、まっすぐでいい奴ではあるが。
いかんせん、うるさい。

「げって何よ。しかもその顔!絶対面倒臭いって思ってるでしょ!」

「ご名答」

プクッと頬を膨らませる彼女から視線を逸らし、真っ黒の傘を握ってドアへ向かう。
校舎内にいても響き渡るほどの大雨。
朝から降る雨は、下校時刻になってもその勢いを落とすことなく降り続いている。

今は梅雨の季節。
雨が続くのは当たり前だが、今年は特別雨の日が多いらしい。
国内の至る所で、雨による水害が問題となっているほどだ。
空を覆うどんよりと重い灰色の雲を睨みつける。
雨ばっかり、うんざりだ。

そうしていると、慌てたように紫音が隣にやってきた。

「もう、置いていかないでよ!夏輝のイジワル!」

「いちいちお前はうるさい」

傘を開き、雨の中へ歩き出す。
途端に雨粒が傘を打つ音が響く。

そんな音さえ煩わしい。
早く梅雨なんて明けてしまえばいいのに。