友樹とは、母親の腹の中にいる時からの知り合いだ。

 じいちゃん同士も幼なじみだし、父親同士も幼なじみなので、必然、俺たちも幼なじみになる。

 友樹のじいちゃんが師範を務める剣道場に、俺はじいちゃんに強制的に投げこまれ、幼い時から友樹と共に剣道に励んでいた。

 とはいっても、俺は弱かった。

 小さい頃はよく泣いた。

 そのたびに、友樹のじいちゃんに叱られた。

 うちのじいちゃんにも叱られた。
 

 友樹は俺と違って強かった。

 師範の孫だからか、筋が良くて、立ち姿は凛々しかった。

 だけど、友樹はいつも不真面目だった。

 練習もテキトーだった。

 つばぜり合いに持ち込んだかと思いきや、その面の中ではにやりといやらしく目を細め、「あそこの女子の道着姿たまらんな」、とか、「あそこの学校の女子の顔面偏差値高いよな」、とか下世話な話をしてくるのだからよろしくない。

 こんなよこしまな心持ちの奴が剣の道を究めんとするなんて、武士ならば絶対風上に置きたくない。

 だけど友樹は、決して剣道が嫌いな風には見えなかった。

 本当に強かった。

 それなのに、俺が剣道部の退部届を出すのと同時に、友樹も退部届を提出した。