八月十五日の花火

 俺の胸に置かれた小さな手に、ぎゅっと力がこめられた。

 いつもは小手に隠れて見えないこの手をじっくり見るのは、初めてかもしれない。

 滑らかな皮膚。

 ほっそりした骨格。

 爪には、ただ色を塗っただけの足先とは違って、繊細なデザインが施されている。
 
 この手が竹刀を握り、あんな力強い技を繰り出すなんて信じられない。
 
 その手が今は震えている。

 あの時みたいに。
 
 今は弱々しく見えるその手に、俺は触れたくてたまらない。
 
 だけど、そっと自分の手を重ねようとしたその時、すっとその手が体から外された。

 それと同時に、背中に感じていた熱も離れていく。

 離れた瞬間、大量の汗が浴衣にしみ込んでいるのが、肌に張り付いた感じと微かに撫でる夜風で感じた。

 ぎこちなく振り返ると、美緒は俺から顔をそらして乱れた髪を撫でつけていた。


「今のは、ドウだよ」


「……え?」とすっとぼけた声を放つ俺に、美緒はぎこちなく笑いながら話し続けた。


「もうほんと享ちゃんは、隙だらけなんだから。高校で、女の子に弄ばれてない? 享ちゃんはすぐに鼻の下伸ばすんだから」


 それは、友樹だろ。


「ぼうっとして、しょうもない恋に落ちないか、心配だよ、まったく」


 そんな心配しなくていい。

 だって俺には美緒しか見えてないから、昔から。


「そんなんじゃモテないぞ」


 モテなくていい。

 美緒さえ、俺を見てくれたら。

 いや、モテはしたいけど。


 にっと笑った顔が、ちらりとこちらに向けられた。

 昔から変わらないその幼げな笑顔に、心が引き戻される。

 その笑顔は、まるで俺の目の前にぱっと開いた、花火のようだった。