八月十五日の花火

 当てもなく、二歩、三歩と足を進めた時だった。

 不意に後ろからどんと何かがぶつかった。

 そうかと思ったら、俺の腰に、薄い浴衣からあらわになったほっそりとした白い腕が巻きついていた。

 その手首には、いつもつけない華奢なブレスレットがキラキラと光っていた。

 その腕が俺の胴回りをきゅっと締め付けると、背中とその小さな体がさらに密着度を増した。

 薄い浴衣から、相手の体温や感触が、ものすごくリアルに背中に伝ってくる。

 こんな何でもない風に冷静に状況解説してるけど、俺の心臓はとんでもないことになっている。


__なに? なになになになに?


 頭が真っ白になって、心の中で声をひっくり返しながら、誰にともなく問いただす。

 これが本音だ。

 これが現実だ。

 心臓がありえないぐらい早鐘を打ち始めた。

 その音のそばを、震える声が過ぎていく。


「好きだよ」

「……ふぇ?」


 ありえないくらい上ずった声が出た。


「私は、好きだよ。八月十五日。だって、享ちゃんに会えるから」


 その言葉に、胸がずきんと疼くのを感じた。


「享ちゃん。忘れちゃった? この日、大切な人に会いに行くのは、亡くなった人の魂だけじゃないんだよ。今を生きる人も、会いたい人に、会いに行くんだよ。この花火のおかげで、みんな大切な人に会いに行ける。八月十五日は大切な人に会いに行ける日。だから、私も好き。享ちゃんに会えるこの日が、享ちゃんと一緒に花火を見られるこの日が、私は大好き」