八月十五日の花火


「あーもー、めんどくせえな」

  
 自室の真ん中にあるローテーブルに突っ伏しながら頭をかきむしった。
 
 そんな俺の前では、友樹が涼しげな顔で漫画を読んでいた。

 俺が部屋から一向に出てこないという母親たちの世間話から仕入れたのか、「お見舞い~」と軽い調子でその日やってきた。


「課題は早めに終わらせた方が良いぜ」


 俺のそばに積むだけ積まれた夏休みの課題の山を視線だけで指しながら友樹は言った。


「言っていることとやっていることが違うぜ」

「俺は余裕だから」


 どの辺が余裕なんだとツッコみたいところだけど、言い返せない。

 友樹と俺は剣道だけでなく、勉強面でも出来が違う。

 どうしてこんなに違うんだろう。

 誕生日だって俺の方が先なのに。

 そんな出来の良い幼なじみから逃げる代わりに、恨めし気な視線を夏休みの課題に突き刺す。

 
「まず何から始めればいいんだ?」
 

 独り言ちながら問題集をペラペラとめくると、文字とカッコが退屈なパラパラ漫画のように過ぎ去っていく。

 こうしているだけで、すべてのカッコが埋まればいいのに。

 
「まずは、じいちゃんに謝ったら?」


 パラパラという軽い音の中に、友樹の声が混ざる。


「え?」と視線を向けたけど、友樹は漫画に視線を落としたままだった。


 とぼけたってよかったけど、言葉が出てこなかった。

 逃げる言葉を探した。

 だけど、友樹の静かな追撃は、止まらなかった。

 
「後回しにすると、言いにくくなるよ」


 まるで、回り込まれて通せんぼされたみたいだった。

 友樹は相変わらず涼しげな表情をしていた。

 だけど、その声はどこか冷ややかだった気がする。


「まあとりあえず、誕生日会の日ぐらい出て来いよ。美緒も新しい浴衣見せたいって気合入ってたし。享ちゃんも見たいだろ?」

「べ、別に美緒の浴衣なんて見たって……」

「今年も楽しみだな」

「だから別に俺は美緒なんて……」

「じいちゃんの花火」


 友樹の声は、花火打ち上げられた時、花開く前のドンって鳴る音みたいだった。

 ドンって、俺の胸を震わせた。



 あんなことがあったのに俺が誕生日会に参加しているのは、友樹とそんなことがあったからだ。